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» 2021年01月08日 07時00分 公開

「不正をするな」から「正しいことをしよう」へ 従業員の意識を変えるエモーショナルコンプライアンスの基礎(後編)(3/3 ページ)

[BUSINESS LAWYERS]
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3.研修の在り方について

 さらに、エモコンの特徴を述べるとすれば、研修方法が今までのコンプライアンス研修とまったく異なるということです。

 冒頭で述べたように、現状のコンプライアンスにおいて、もっとも大切なのに力を注がれていない点に「限定された倫理性」の克服があります。

 「分かっちゃいるけど、実際には頭で理解していることと違うことを行ってしまう」点を克服するキーポイントは、研修に「イメージを使うこと」そして「臨場感」を高め、「(疑似的な失敗や成功を通じて)体験」で問題を克服することです。

 そもそもわれわれは、「イメージの限界」が「マネージの限界であり」、イメージなくしてマネージなし」なのです。その意味で、単に、正しいことを知識で覚えるのではなく、それを行った際の疑似体験を通じてビビッドにイメージできる力を研修のなかでつけていくことを目指します。まさにイメージトレーニングをエモコン研修に利用するのです。

 正しいことをすると、どんな気持ちになれるのか、それを具体的にはっきりとイメージができない限り、悪魔の囁きに負けずに正しいことや誇りある行動を貫き通すことはできません。

 私は、2019年3月から、イメージトレーニングの一環としてVRを使用していますが、それは、まさにVRが臨場感を高めるもっとも優位なテクノロジーだからです。

 いま、エモコンのVRは、コロナ禍にも鑑み完全オンラインでも臨場感を維持できるようなものへと進化を遂げようとしています。ぜひ一度体験してほしいと思います。

 しかし、臨場感を高めただけでは、まだ足りません。実際に、悪魔の囁きに負けそうになって判断がブレる時に、どう思考して、その壁を乗り越えていくか、この思考プロセスを磨くトレーニングをさらに行わなければならいのです。これが私のいう「倫理トレーニング」です。

 正しいことは、単に理論や知識だけでは行えません。それを行い続けるには、技術・ノウハウも必要なのです。

 そのような技術も学びながら、疑似体験で失敗や成功を重ねて、よりよい思考ができるような倫理トレーニングは、まさにレジリエンスを基礎においた、新しい研修スタイルです。

 倫理トレーニング、略して倫トレは、私が実施しているエモコン独自のトレーニングです。

 頭では分かっていても、実際にその通り行動できないという認識と行動のギャップを埋めるために、白とも黒ともつかないグレーの問題に対処し、そこで、正しい答えを見つけるのではなく、「なぜそう結論付けたか?」「その結論に至る判断のどこに問題があるかないか?」に着目して、実際の行動につながるまでの思考プロセスを磨きます。

 従来のディスカッション研修と似ているようで大きく異なる点は、次の4点です。

(1) 講師の私と受講者があくまで1対1で問題の回答についてやりとりをします。その過程で私は、あくまで答えを伝えるのではなく、「なぜそう考えるか?」「反対の意見もあるが、それについてどう反論するか?」「正しい、正しくないという以外に、何か別の解決方法を見つけることはできないか?」という点を繰り返し質問することによって、受講者自らが答えを導くことを主眼とします。いわば、ティーチングではなく、コーチング形式で、研修を進めるのです。

(2) 従って、研修では、理想の答えをあえて設けず、むしろ、判断プロセスへのアプローチの見直し・振り返り、考え方の柔軟性について学ぶことに主眼をおきます。また、受講者の意見が割れることで、単に自分と違った意見を非難するだけではなく、「どこがどう違って、どう考えれば、そうなるのか?」という違った意見の思考過程についても、理解を深めることを大切にしています。

(3) ディスカッション研修のように、過去に自社であった不祥事をテーマにすることなく、むしろ「大きな問題とはなっていないけれど、何となく皆がおかしいのでは?」と思っているテーマや事象(これを「あるある問題」と呼んでいます)を取り上げ、また、自社の業界以外で起こった事例も加味して、5〜10問前後の例題をテーマとして取り上げます。

(4)最終的には、多くの視点、オプションを持ちながら、判断に窮するような問題でも、「分からない」ですませることなく、少なくともセカンドベストの答えが出せる訓練を積んでいくことを目指します。

 「私用携帯を会社で充電することは問題あるか?」「会社のPCでコンサート予約をすることの可否」や「テレワーク中の私用の可否」という初歩的な問題から、実際に悩ましい具体的な事例まで取り上げます。

 例えば、「自社の部長が重要取引先の部長に対して、個人的に高額な旅行券を会社負担で送ることの是非」等について、具体的な事例問題にして、実際には、もう少し複雑な背景事情も取り入れながら、正しいとも正しくないとも、どちらでも結論があり得るような問題について、一緒に検討を重ねていくことによって、「正しい行動は、理論だけでは必ずしも成しえない。それに到達するまでの技術やノウハウも必要」ということを学ぶのです。

4.まとめ

 ブラックスワンがあらゆる側面で起きる現在、コンプライアンスも一度全てを見直し、新たな切り口から新たな取り組みを行っていくことがいま、まさに求められています。

 これまでに、多くの上場企業やベンチャー企業でエモコン研修やその要素を取り入れた役員研修を行い、おかげさまで好評を得てきました。

 機会がありましたら、ぜひ、エモコンに触れ、皆さまの社内でも「新しいコンプライアンス」態勢を創る一助にしていただければ幸いです。

 なお、本稿をより詳細に解説した記事としては、「エモーショナルコンプライアンスの理論と実践」(BUSINESS LAW JOURNAL(2016年12月号〜2018年1月号))があります。また、来春にはエモコンの理論と実践をさらに最新化した書籍も出版の予定です。そちらも併せて参考にしてみてください。

増田 英次弁護士 増田パートナーズ法律事務所

87年中央大学法学部卒業。90年弁護士登録。03年米国コロンビア大学ロースクール卒業(LL.M.)。06年ニューヨーク州弁護士登録。08年増田パートナーズ法律事務所設立。著書・論文『もうやめよう!その法令遵守』(フォレスト出版、2012)、『エモーショナルコンプライアンスの理論と実践』(BUSINESS LAW JOURNAL、2016年12月号〜2018年1月号)など多数

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