そうやって販売で勝利しても、負けた側には「あれは超小型モビリティであって、クルマじゃない」という逃げ道は残されている。まさかトヨタが意識しているわけはないだろうが、筆者は孫子のいう「囲師(いし)には必ず闕(か)く」を連想する。攻囲した敵には落ち延びる逃げ道を残しておかないと、死兵(死を覚悟した兵)となって、損害を被るという話だ。「いやいやウチのは超小型モビリティなんで」と謙遜した言葉を真に受けていると、数年後に気付けば、誰ももうトヨタを「EV出遅れ」などとは言えなくなるだろう。
特にEVファンを中心に、この仕様をしょぼいという人が出てくるであろうことは容易に想像が付くが、こういう人たちが主張するテスラのフォロー商品みたいなものを出しても失敗の可能性が高い。なぜならいわゆるプレミアムEVというのは嗜好品(しこうひん)であり、嗜好品でヒットを取るのはかなり運の要素が強い。テスラの影でどれだけの新興EVメーカーが倒産していったかを思い起こせば、それは腹に落ちるはずである。
リヤに搭載したモーターで後輪を駆動するシステムだが、その影響を最小限にとどめて、商用として十分な荷室を備える
例えば、フォードのマスタング・マッハEあたりは、まさにそういう嗜好品セグメントに、フォードのレジェンドを投入してアプローチし、運だけに頼らない戦術を採っている。しかし再生産の効かない歴史資産を使って、果たしてどの程度の商業的成功が得られるだろうか? やってみなければ分からないけれども、やってみる程度の賭けに企業のレジェンドを投入してしまうのは、リスクと戦果が見合わない。
トヨタはそんなことをやりたくないから、ずっとEVに慎重なスタンスを取ってきた。そして考え抜いた末、浮ついた嗜好品ではなく、ビジネス上の実需を見つけ出し、商品企画から開発から営業まで一丸となって作り上げた絶対に勝てる戦略でスタートを切ったわけだ。
- 「超小型EV」でEVビジネスを変えるトヨタの奇策
モーターショーに出品されたトヨタの「超小型EV」。これは多分東京の景色を変える。EVの最大の課題は高価なバッテリーだ。「値段を下げられるようにバッテリーを小さくしよう」。いやいやそんなことをしたら航続距離が足りなくなる。だからみんな困っているのだ。ならば、航続距離がいらないお客さんを選んで売ればいい。これがトヨタの奇策だ。
- トヨタの電動化ゲームチェンジ
世間からはずっと「EV出遅れ」と言われてきたトヨタ。今回、電動化車両550万台達成を5年前倒して2025年とするとアナウンスした。そのために、従来のパナソニックに加え、中国のバッテリーメーカー、BYDおよびCATLとも提携した。さらに、用途限定の小規模EVを作り、サブスクリプションモデルを適用するというゲームチェンジをしてみせたの。
- ガソリン車禁止の真実(考察編)
「ファクト編」では、政府発表では、そもそも官邸や省庁は一度も「ガソリン車禁止」とは言っていないことを検証した。公的な発表が何もない。にも関わらず、あたかも30年にガソリン車が禁止になるかのような話が、あれだけ世間を賑わしたのはなぜか? それは経産省と環境省の一部が、意図的な観測気球を飛ばし、不勉強なメディアとEVを崇拝するEVファンが、世界の潮流だなんだと都合の良いように言説を振りまいたからだ。
- ガソリン車禁止の真実(ファクト編)
年末の慌ただしい時期に、自動車業界を震撼(しんかん)させたのがこのガソリン車禁止のニュースだった。10月26日の菅義偉首相の所信表明演説と、12月11日の小泉進次郎環境大臣会見が基本になるだろう。カンタンにするために、所信表明演説を超訳する。
- RAV4 PHVとHonda e予約打ち切り どうなるバッテリー供給
トヨタRAV4 PHVと、ホンダのHonda eの予約注文が中止になった。両車とも想定以上に売れたことが理由なのだが、トヨタははっきりとバッテリーの供給が間に合わないと説明している。ホンダは予定生産台数の国内配分枠を売り切ったからというのが正式説明だが、まあおそらくは、その予定生産量を決めているのはバッテリーの供給量だと踏んで間違いはあるまい。
- 日本のEVの未来を考える(前編)
EVの未来について、真面目に考える記事をそろそろ書くべきだと思う。今の浮ついた「内燃機関は終わりでEVしか生き残れない論」ではないし、「EVのことなんてまだまだ考える必要ない論」でもない。今何が足りないのか? そしてどうすれば日本でEVが普及できるのかという話だ。
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