クルマはどう進化する? 新車から読み解く業界動向

圧倒的に正しいEV登場池田直渡「週刊モータージャーナル」(3/6 ページ)

» 2021年01月11日 07時00分 公開
[池田直渡ITmedia]

 そうやって販売で勝利しても、負けた側には「あれは超小型モビリティであって、クルマじゃない」という逃げ道は残されている。まさかトヨタが意識しているわけはないだろうが、筆者は孫子のいう「囲師(いし)には必ず闕(か)く」を連想する。攻囲した敵には落ち延びる逃げ道を残しておかないと、死兵(死を覚悟した兵)となって、損害を被るという話だ。「いやいやウチのは超小型モビリティなんで」と謙遜した言葉を真に受けていると、数年後に気付けば、誰ももうトヨタを「EV出遅れ」などとは言えなくなるだろう。

 特にEVファンを中心に、この仕様をしょぼいという人が出てくるであろうことは容易に想像が付くが、こういう人たちが主張するテスラのフォロー商品みたいなものを出しても失敗の可能性が高い。なぜならいわゆるプレミアムEVというのは嗜好品(しこうひん)であり、嗜好品でヒットを取るのはかなり運の要素が強い。テスラの影でどれだけの新興EVメーカーが倒産していったかを思い起こせば、それは腹に落ちるはずである。

リヤに搭載したモーターで後輪を駆動するシステムだが、その影響を最小限にとどめて、商用として十分な荷室を備える

 例えば、フォードのマスタング・マッハEあたりは、まさにそういう嗜好品セグメントに、フォードのレジェンドを投入してアプローチし、運だけに頼らない戦術を採っている。しかし再生産の効かない歴史資産を使って、果たしてどの程度の商業的成功が得られるだろうか? やってみなければ分からないけれども、やってみる程度の賭けに企業のレジェンドを投入してしまうのは、リスクと戦果が見合わない。

 トヨタはそんなことをやりたくないから、ずっとEVに慎重なスタンスを取ってきた。そして考え抜いた末、浮ついた嗜好品ではなく、ビジネス上の実需を見つけ出し、商品企画から開発から営業まで一丸となって作り上げた絶対に勝てる戦略でスタートを切ったわけだ。

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