日本は食料自給率が低いものの、コメだけはほぼ100%を維持し続けている。半導体は、ほとんどの工業製品に必要なことから「産業のコメ」とも呼ばれるが、前述のように半導体製造を自前で行うのは、いろいろとハードルが高い。
電子部品の最終組み立てを請け負っている中国でさえ、内製率は15%程度に過ぎないのである。内製率を向上させる目標を掲げていながら、10年経ってもほとんど伸びていないのは、電子部品の生産量自体が上がっていることと、より専門性を求められている傾向が影響しているのだろう。
TSMCは自動車向け半導体の生産量を増やすべく、生産ラインの増強などを進めているが、それでも需要に応えられるのは5月になってからだといわれている。「そんな悠長なことは言ってられない」と怒り心頭の購買担当、生産管理担当もいることだろう。ファウンドリー頼みの半導体市場に、今になって恨み節を言っても始まらない。現状の問題をどう解決していくか、それはやはり国内の製造業を利用するしかない。
日本にはスーパーコンピュータで世界一の性能を誇る富岳(ふがく)がある。この技術力に加え、半導体の製造装置や素材の生産では、日本は未だにトップレベルの技術と生産能力を有している。
クルマに使われるマイコンの数を減らし、HPC(ハイパフォーマンスコンピュータ=高性能なコンピュータユニット)によって複雑な処理を一気に行なうことを考えているティアー1も存在する。そこで必要になるのがSoC(システムオンチップ=CPUに加えGPUや周辺回路の部品まで一体化した基盤に近いチップ)である。
クルマに使われる半導体すべてをカバーするのではなく、SoCに絞って一定数を生産することで、半導体の需要を補うまでにはいかなくても、ファウンドリーに対して牽制(けんせい)することができるのではないだろうか。自動車メーカーが連携を組み、ルネサスやキオクシア(前東芝メモリ)と一緒に先端プロセスの生産拠点を立ち上げるなど、国内でもある程度の供給を賄えるようするのだ。
歩留まりの問題はあるものの、SoCであれば生産規模をファウンダリーのように巨大にまでしなくても採算ベースには乗れる可能性は高い。
これから電動化を進めるにあたり、この課題は乗り越えなくてはいけない壁だ。なぜならリチウムイオンバッテリーも同じ状況になることが考えられるからだ。すでに生産中の製品を、部品の枯渇によって減産しなければならないのは自動車メーカーにとって、とてつもない損失に値するからである。
芝浦工業大学機械工学部卒。日本自動車ジャーナリスト協会(AJAJ)会員。これまで自動車雑誌数誌でメインライターを務め、テスターとして公道やサーキットでの試乗、レース参戦を経験。現在は日経Automotive、モーターファンイラストレーテッド、クラシックミニマガジンなど自動車雑誌のほか、Web媒体ではベストカーWeb、日経X TECH、ITmediaビジネスオンライン、ビジネス+IT、MONOist、Responseなどに寄稿中。近著に「ロードバイクの素材と構造の進化(グランプリ出版刊)、「エコカー技術の最前線」(SBクリエイティブ社刊)、「メカニズム基礎講座パワートレーン編」(日経BP社刊)などがある。企業向けやシニア向けのドライバー研修事業を行なう「ショーファーデプト」でチーフインストラクターも務める。
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