攻める総務

社員の健康推進「予算がないから後回し」では済まない! 必要な予算は総務が作り出す最終回・総務プロの「攻めと守り」(1/2 ページ)

» 2021年02月01日 07時00分 公開
[金英範ITmedia]

連載:総務プロの「攻めと守り」

 連載第1回〜第5回では、ウィズコロナの時代はオフィス変革のまたとないチャンスであること、「総務業務 36種MAP」を見ながら総務が「攻める」「守る」部分の整理、市場の理解、そして働き方改革でのテクノロジーへの投資方法の一つを紹介しました。

 最終回のテーマは「ウェルビーイング」(Well-Being)です。総務の立場では「社員が快適に仕事をすれば、自然と生産性が上がるように、プロセスと環境を継続的に整えることが重要」といったところでしょうか。

 人はほとんどの時間を建物内(人工的に作られた“built environment”)の中で過ごしています。そこを快適な場所に変えていくことが大事であり、そのために会社の予算を投じるのです。目的は、施設やオフィス機器の整備そのものではなく、最終的に社員の健康を支えることに他なりません。

photo 写真はイメージです(提供:ゲッティイメージズ)

社員1人当たり年間10万円を「人事関連」予算に 社員の健康を促進

 前回も触れましたが、コロナ禍により働き方が急変し、特に2021年以降、企業における「総務予算の変革」がオフィス市場で注目されています。総務という肩書を持つ全国の担当者が、1年間に発注する金額は20兆円を超えるのです。その中で、働き方改革により、総務が使える予算(総務サイフ)内では、ハード系のコスト、つまりオフィス関連コストや空調電気代、清掃代などが大きく削られます。

 大幅減となった部分が、ソフト系のコスト(社員の生活を支えるコスト)へ還元されるでしょう。計算では社員1人当たり、年間30万円を使えることになります。30万円のうち、10万円は何にも充てず削減、残り10万円=DX関連の予算、10万円=人事関連の予算へ振り替える、といった想定ができます(図1)。

photo (図1)総務が使える予算(総務サイフ)のニューノーマルと予算の振り替えの例=筆者作成

 これまでも、事業用不動産サービス大手のCBRE社が「オフィス空間の評価基準『WELL認証』(Well Building Standrd)を取得するためにかかる費用と効果(生産性向上)を比べると、投資効果が3.6倍」という試算を発表したことがありました。

 ですが、これは経営活動のベースラインコストを維持しながら、社員の健康のために追加コストをかけるケースです。社員1人当たり30万円以上はかかるといわれるWELL認証獲得のコストは、企業にとっては重荷であり、それ自体が取り組みのハードルを上げていました。社員の健康を思いやる気持ちはどの企業も当然ある一方、投資できなかった企業も多かったはずです。

 しかしコロナが働き方を変え、不動産コスト(オフィスの費用)の見直しが進み、1人当たり30万円のベースラインコストが削減可能となった今、社員の健康への投資にかけるCAPEX・OPEXコストは、数年の減価償却でPL換算すると「アンダーベースライン」のプロジェクトと化すわけです。

 人事予算へ振り替えられた「社員1人当たり年間10万円」という予算を使い、徐々に社員の健康へコストを割ける流れが多く企業で生まれると、筆者は推測します。本稿では、その簡単なシミュレーションとその効果を提言します。

実行可能な、Well-being施策の具体例

 Well-Beingの中身に関しては、専門的な書籍が多くありますので、ここでは割愛しますが、(図2)の通り、簡潔に「社員が身も心も、そして社会的(コミュニティー的)にも健全な状態にあり、その個々の能力を発揮できる状態」と筆者は解釈しています。

photo (図2)Well-beingの重要な3つの軸=米IWBIの資料より

 体の健康だけではその能力は十分に発揮できません。心が健全であること、そして心をつなぐコミュニティーへ所属して得られる安心感によって、能力を十分に発揮できます。分かりやすく言えば「アウェイではなく、ホームにいる感覚」です。会社というコミュニティーは「自分にとってホームである」という安心感を、社員に持ってもらうことで、能力を発揮できる土台が完成すると、筆者は考えています。

 その土台を作るための10項目がWell-Beingの分野では定義され、それぞれ科学的に、人間生態学的に、行動心理学的に実証されています(図3)。

 さらに詳しい内容は、Global Well-being Institute(IWBI)を参照ください。日本語の説明では、一般社団法人Green Building Japanが情報を集約していて分かりやすいです。

 また、日本国内でもWELL認証のみならず、働く環境をベースとした社員の健康戦略などをアドバイスしてくれる企業があります。woonerf(ヴォンエルフ、東京千代田区)なども参照ください。

photo (図3)Well-beingの重要な10項目。最新版では11個目の項目、イノベーションが加わっている=米IWBIの資料より

 (図3)の通り、Well-Beingの重要な10項目は、当然といえば当然の要素でもあり、概念的にも理解しやすいですが、具体的に総務・人事がどのような施策を打てるのかを考えるには、WELL認証を取得するためではなく「まずはWell-Beingの考え方を理解・考慮し、バランスよく働ける環境を社員へ提供すること」が一番重要と考えます。

 認証を取得することがそもそもの目的ではなく(それは結構大変で、労力と予算が必要)、本来の目的は社員を健康な状態で能力を発揮できるようにすることです。その身近な地道な活動の延長線上に、将来、WELL認証の取得があればなお良い、と考えます。

       1|2 次のページへ

Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.