以前、「『週休3日』『副業容認』は各社各様 “柔軟な働き方”を手放しで喜べないワケ」という記事でも触れたように、経団連の中西会長は、終身雇用という仕組みが制度疲労を起こしていると訴えました。
終身雇用の考え方は、言い換えれば社員の生活を生涯にわたって企業が守るということです。しかし、経済環境の急激な変化やグローバル化による市場環境の激化が進み、雇用を守り続けることが難しくなっているのは事実です。それが難しいとなると、俗に正社員と呼ばれる働き方で就職すれば終身雇用で生涯安泰、という標準的勝ちパターンは成立しなくなります。
結婚を機に退職することを寿退社と言いますが、寿退社して専業主婦として生きていく女性はかつて「永久就職した」といわれました。それが一般的だったころを古き良き時代と見るか否かは人それぞれですが、夫が正社員として終身雇用されるのとセットで、当時の女性にとっては標準的勝ちパターンだと思われていた面がありました。
そんな、「夫は終身雇用・妻は永久就職」という組み合わせが標準的勝ちパターンと思われていた時代は、企業側の弱体化に伴い終わりつつあると誰もが感じていると思います。女性の意識も大きく変わりました。女性活躍推進が国の政策となり、少しずつではありますが女性管理職の比率も増えてきています。昨年、私が所属するしゅふJOB総研で、仕事と家庭の両立を希望する働く主婦層に対し、10年後の夫婦のワークスタイルはどうなっていると思うか調査したところ、「夫婦対等に共働き」が増えると回答した人が6割超に及びました。
そこで飛び出た経団連会長の発言は、標準的勝ちパターンが成立した時代の終わりを決定づける最終宣告だったと言えます。
標準的勝ちパターンが失われつつある要因といえる労働者側のもう一つの意識変化は、価値観の加速度的な多様化です。
先ほど事例として出したAさんとBさんは、賃金重視と休暇重視というざっくりとした違いを抱えている2人でした。しかし、ひとえに賃金重視といっても、「できれば成果報酬型で桁違いの賃金を得たい」と考える人もいれば、「年俸制で安定的かつ一定水準以上の賃金を得たい」と希望する人もいます。当然ながら休暇重視の人でも、「まとまった長期間の休みを取りたい」という人もいれば、「自分が休みたいときに自由に休みたい」と望む人もいるでしょう。
こうした違いは、今でこそ価値観の多様化という文脈で肯定的に受け入れられる雰囲気ができてきましたが、終身雇用が標準的勝ちパターンとして成立していた時代には、単なるわがままと受け取られがちでした。遅く出勤したり、退社時間を早めたり、仕事を休んだりすることには、ある種の後ろめたさが付きまといました。「すみません。用事があるのでお先に失礼します」と、まくら言葉に「すみません」をつけるのが当然といった具合です。
今でも「すみません」文化は多くの職場で見られますが、その根本的な要因は退社時間を早めたり仕事を休んだりすることで職場に何らかのしわ寄せがいってしまうという業務設計上の問題です。業務設計上の問題をクリアしない限り、仕事を休んだりすることへの後ろめたさが完全に消えることはないと思います。
しかし、労働者の意識は業務設計の改善や職場改革を待たずに、どんどん進化していきます。価値観多様化の流れは以前からありましたが、その流れが加速した大きなきっかけの一つがコロナ禍です。
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