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「一律賃上げは非現実的」 経団連が弱音を吐き、かつての「勝ちパターン」も崩壊した今、働き手はどうするべきか春闘にも限界(4/4 ページ)

» 2021年02月08日 05時00分 公開
[川上敬太郎ITmedia]
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 コロナ禍で出勤時間を遅らせたり、在宅勤務したりするケースが増えたことで新たな課題も生まれましたが、多くの成功体験も生まれました。

 「必ずしも全員が同じ時間に出社しなくてよいのではないか?」「テレワークがしやすくなれば、毎日地獄のような通勤ラッシュを味わわなくてもすむのではないか?」――これまで抑圧され、深く考える機会すら生じなかったこうした疑問に、コロナ禍をきっかけとして多くの労働者が気付くことになりました。それは確実に労働者の意識を変化させています。

 終身雇用される代わりに、毎日通勤ラッシュにもまれて出社しなければならない。転居を伴い、家族が離れ離れになる異動にも応じなければならない。それなら終身雇用でなくとも、もっと自由で快適な働き方を選びたい。そう考える人にとっては、かつて標準的勝ちパターンだった働き方など、もはや負けパターンでしかありません。

かつての標準的勝ちパターンは、もはや負けパターンに(出所:ゲッティイメージズ)

個人の交渉力を高めることも必要

 労働者の希望は、突き詰めていくと全員が完全に一致するということはないはずです。価値観の多様化が加速度的に進む中、むしろ労働者個々の希望のズレは大きくなる方向に進んでいると言えます。

 個々の労働者の価値観が加速度的に多様化している現状を考えると、冒頭で紹介した労働組合の組織率16.7%はまだ健闘しているようにも思います。今、日本中で雇用されて働く人の数は6000万人を超えます。本来、労働者の希望は少なくとも6000万通りはあるということです。働く人全てが満足できるようにするには、6000万人の希望が遍く個別最適化される仕組みを作り出す必要があります。

 労働者が困ったとき、組織と闘いたいとき、労働組合やユニオンは頼りになる存在です。一方で、個別最適化するには自分自身が有する交渉力を高めることも重要になってきます。

 雇用や労働に関する情報、法制度などの知識を学んでおくことも交渉力を高めるためには必要です。そしてもう一つ、個人としての発信力を高めておくこともおすすめします。

 パワハラなどの陰湿な嫌がらせがそうであるように、不健全な圧力は得てして密室の中で起こりがちです。今はSNSなどを通じて、誰もが世界中に向けて発信することができる時代です。それは、いざというときに自分の身を守る武器となり、力となります。

 社会の仕組みも変えていかなくてはなりません。しかし、標準的勝ちパターンが崩壊し過渡期にある現在、まずは自分で自分を守り、交渉する力をつけるために何ができるかを考え、備えておくことは喫緊の課題として認識しておくべきなのではないかと考えます。

著者プロフィール・川上敬太郎(かわかみけいたろう)

1973年三重県津市生まれ。愛知大学文学部卒業。テンプスタッフ株式会社(当時)、業界専門誌『月刊人材ビジネス』などを経て2010年株式会社ビースタイル入社 。2011年より現職 (2020年からビースタイル ホールディングス) 。複数社に渡って、事業現場から管理部門までを統括。しゅふJOB総研では、のべ3万人以上の“働く主婦層”の声を調査・分析。 『ヒトラボ』『人材サービスの公益的発展を考える会』主宰。NHK『あさイチ』など、メディア出演・コメント多数。 厚生労働省委託事業検討会委員等も務める。 男女の双子を含む4児の父。


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