AI insideの衝撃【前編】売上を250%成長させるSaaSの逆セオリー(6/7 ページ)

» 2021年03月12日 05時00分 公開
[早船明夫ITmedia]

ARPU(単価)を下げながら圧倒的社数での導入を図る

 渡久地氏は急成長の要因をもう一点挙げます。それは、20年より開始した低価格版プロダクトの投入です。

 それまでDX Suite Standardの初期費用20万円、月額10万円〜であったプラン(それぞれ税抜、以下同)に加え、Lite版として初期費用0円、月額利用3万円〜のプランをリリースしました(DX Suite Standardの初期費用も当初は150万円)。

 直近時点において、DX Suite(Intelligent OCR)は1万2942契約に達していますが、うちStandard以上のプラン985契約に対し、 Liteプランは1万1957契約と、低価格版の急速な積み重ねによって成長に至ったことが伺えます。

 ここにもSaaSにおける逆セオリーともいえるべき戦略が見えてきます。

 SaaSビジネスにおいては、定常的な収益であるARR(Anuual Recurring Revenue)を日々成長させていくことが求められます。ARRは契約数と単価といった要素に分解できるため、利用の社数に加え、機能拡充や社内での利用人数の拡大によって、「単価を向上させていくこと」が王道です。

 一方でAI insideにおいては、大きく単価を下げながらも、パートナー戦略を駆使して圧倒的な導入社数を達成し、それによってARR成長率を向上させました。

 このほかにも「30%の売上原価率を目指す」ことが一般的なSaaSビジネスにおいて、AWSなどクラウド型のサーバを利用せず、自社でデータセンターを構築することで原価率7.7%という高収益体制を可能とするなど、売り上げのみならずコスト面においても随所に「SaaSの逆セオリー」ともいえる意思決定がなされてきました。

 今後、「DX Suite」以外の展開を加速させる中で、「エクスポネンシャルな成長」を遂げる同社に強い関心が寄せられています。

SaaSプロダクトパートナー戦略の再現可能性は

 AI insideの成長の肝となったパートナー戦略は、現在まで主流であった直販体制戦略にインパクトを与えるとともに、今後、高い成長を望むSaaS企業にとってベンチマークすべき事例になり得るといえそうです。

 しかし、どんなSaaS企業でもAI insideと同様の戦略を取れるのでしょうか。

 外資系SaaSの日本事業立ち上げ経験を持ち、現在、契約マネジメントシステム「ホームズクラウド」を提供するHolmesでバイスプレジデントを務める志村裕司氏は、「SaaSプロダクトの販売代理戦略はパートナー側のメリットにより添えるかが成功の肝」と言います。

SaaS ビジネスでパートナーと組むためのポイント

  • SaaSプロダクトと、パートナー側の戦略やサービスに補完性がある
  • SaaSベンダーが営業や導入促進などに対しサポーティブである
  • オンボーディングや製品理解の難易度を上げ過ぎない
  • SaaSベンダーとパートナー側の長期的なリレーションを構築する

※ 志村氏取材により筆者まとめ


 多くのSaaS企業が誕生し成長に向けた取り組みがなされる中で、SaaSのプロダクト種別や成長フェーズ、販売パートナーとの相性などと照らし合わせながら、直販以外での拡販モデルが今後広まってくることが予想されます。

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