「悪質撮り鉄」は事業リスク、鉄道事業者はどうすればよいか杉山淳一の「週刊鉄道経済」(2/6 ページ)

» 2021年05月12日 08時00分 公開
[杉山淳一ITmedia]

鉄道会社は、施設管理責任を問われる

 2021年4月25日に起きたJR西川口駅の傷害事件は記憶に新しい。新しいどころか不毛なマナー論争が起きているし、それを追い掛けるコラムも多い。しかし、そのなかで駅管理者のJRの責任を問う論調を見掛けない。

 事件は、加害者が撮り鉄の少年を叱責したところ、その様子を撮影していた者に対して逆ギレして襲いかかり、この勢いで被害者を押し倒した。被害者は頭の骨を折る重傷と報じられている。

 もちろん加害者が悪い。しかし加害の原因となった少年も周囲への配慮に欠けていたようだ。また、撮影者も無断で人を撮影していた。トラブルを撮影した行為は善であったか。結果的にネットにさらしているわけで、それを民間報道とするか否かは別問題だ。しかし、風評としては「総じて撮り鉄が悪い」となっているようだ。鉄道施設に集まるヤカラはどうかしている。仲間内のケンカか。

 しかし、駅施設を管理するJR東日本の責任も問われるべきだ。撮り鉄が集まった原因は、定期運行を引退した電車が臨時列車として走るためだ。いままで、特別な列車が走る場合は撮り鉄が集まり「悪質な撮り鉄」が問題行動を起こした。その例は数知れず。撮り鉄が集まり、陣取りを始めた時点で、トラブルの発生は予見可能性がある。

 JR東日本では、クルーズトレイン「TRAIN SUITE 四季島」の運行やお召し列車などの運行に際して、停車駅、通過駅の一部エリアを立ち入り禁止とした実績がある。また、「TRAIN SUITE 四季島」が上野駅を出発する際に、隣の線路にわざわざ回送車両を留め置いた事例もある。プラットホームから撮り鉄が不用意に乗客を撮影しないようにという配慮だ。

 当然ながら撮影を妨害された悪質撮り鉄は憤慨したけれども、JR東日本の判断は正しい。JR東日本にとって、イベント列車に乗ってくれる人と、それを撮影する人と、どちらが大切か。そこは絶対にブレてはいけない。

 西川口の事件において加害者は刑事責任が問われる。被害者と知り合いではなく、計画性もなく、殺意もなかったから殺人未遂にはならない。しかし暴行する意思があったから傷害罪だ。そして私が被害者の父親なら民事訴訟を起こすだろう。相手は加害者とJR東日本だ。JR東日本は撮り鉄がトラブルを起こすと予見できた。立ち入り禁止、人員整理など対処すべきだった。自分の子も行ったから責任はある。しかし、施設管理者にも責任はある。

 撮り鉄が駅構内で事故を起こせば、たとえそれが自己責任と見なされても、管理責任を問われる。悪質撮り鉄問題は訴訟リスクを抱えている。

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