「悪質撮り鉄」は事業リスク、鉄道事業者はどうすればよいか杉山淳一の「週刊鉄道経済」(6/6 ページ)

» 2021年05月12日 08時00分 公開
[杉山淳一ITmedia]
前のページへ 1|2|3|4|5|6       

「撮り鉄三ない運動」を防ぐには

 オートバイの「三ない運動」をご存じだろうか。オートバイについて「免許を取らせない」「買わせない」「運転させない」というスローガンが高校生を対象に掲げられた。その理由は自動車の普及と交通事故の増大であり、「オートバイに乗せると交通事故の被害者、加害者になる危険がある」というタテマエだった。しかし本音は暴走族の増加による「オートバイに対する嫌悪感」だったと思う。

 「三ない運動」によって、純粋にオートバイを好きな生徒は趣味を奪われ、公共交通の未発達な地域でオートバイ通学したい生徒は不便を強いられた。「三ない運動」はその後、多くの自治体で「嫌悪するより交通教育に注力すべき」という方針が示されて、いまでは表だって話題にならないようだ。

 暴走族の存在によって、多くのオートバイ乗りは多かれ少なかれ風評被害を受けてきた。「バイク乗りにロクなヤツはいない」「バイクの存在は近所迷惑」というような。もちろん、オートバイメーカー、販売店、バイク雑誌などビジネスにも悪影響だった。

 同じように「悪質撮り鉄」の存在は、多くの「撮り鉄」や鉄道ファンに風評被害をもたらす。鉄道事業者のビジネスも阻害している。このままでは「鉄道を撮らせない」「カメラを買わせない」「乗車以外で駅に行かない」の新たな「三ない運動」が生まれそうだ。そうなる前に、悪質撮り鉄を弱体化させたい。暴走族が警察の働きで弱体化したように鉄道警察隊を強化して対処してほしい。

「悪質撮り鉄」は、線路用地に侵入するなどの不法侵入、器物損壊事件も後を絶たない。さらには沿線の私有地に立ち入り荒らす(写真はイメージ)

 さて、ここまで私が「悪質撮り鉄」と「撮り鉄」を書き分けてきたことにお気付きだろうか。「暴走族」と「ライダー」を書き分けるように。

 「暴走族」はまだ見掛けるものの、すっかり流行らなくなった。若者の消費の多様化でバイクよりスマホで遊ぶ人が増えたかもしれない。「暴走族」の名はカッコよすぎだから「珍走団」とダサい名で呼ぼうという風潮も功を奏したかもしれない。もはや「暴走族」は恥ずかしい存在になった。

 「悪質撮り鉄」と「撮り鉄」は紛らわしいから「悪質撮り鉄」に新しい呼び名を与えたい。「珍走団」にならって「珍撮団(ちんとりだん)」はどうか。新しくダサい名前を与えて、世の中からカッコ悪く思われていると認識させる。これを鉄道業者の厳しい施策と合わせて実施したい。

杉山淳一(すぎやま・じゅんいち)

乗り鉄。書き鉄。1967年東京都生まれ。年齢=鉄道趣味歴。信州大学経済学部卒。信州大学大学院工学系研究科博士前期課程修了。出版社アスキーにてPC雑誌・ゲーム雑誌の広告営業を担当。1996年よりフリーライター。IT・ゲーム系ライターを経て、現在は鉄道分野で活動。鉄旅オブザイヤー選考委員。著書に『(ゲームソフト)A列車で行こうシリーズ公式ガイドブック(KADOKAWA)』『ぼくは乗り鉄、おでかけ日和。(幻冬舎)』『列車ダイヤから鉄道を楽しむ方法(河出書房新社)』など。公式サイト「OFFICE THREE TREES」ブログ:「すぎやまの日々」「汽車旅のしおり」。


前のページへ 1|2|3|4|5|6       

Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.