クルマはどう進化する? 新車から読み解く業界動向

再度注目を集める内燃機関 バイオ燃料とe-fuel池田直渡「週刊モータージャーナル」(3/4 ページ)

» 2021年05月17日 07時00分 公開
[池田直渡ITmedia]

水素化合燃料

 こうしたバイオ系以外に水素をベースとするものがある。という話をすると「水素は化石燃料から作る」という突っ込みが入るが、今注目されている水素調達は、福島水素エネルギー研究フィールド(FH2R)で実証実験が行われているような、再生可能エネルギー由来の水素や、石油精製や製鉄の過程で副次的に発生する副生水素である。

福島の水素エネルギー研究フィールド(FH2R)

 仮に将来、日本で再生可能エネルギー100%が実現できたとすれば、発電には巨大な余剰が必ず発生する。気象に左右される再生可能エネルギーは、足りないこともある代わりに余ることもある。さらにいえば季節変動も大きい。そうした余剰電力を数カ月単位で保存するとなればバッテリーでは難しい。そこにエネルギーの保存・保管手段としての水素利用が生まれることになる。

 さて、この水素、FH2Rで作られるような高純度のものであれば燃料電池車(FCV)に利用できるが、副生水素のように一定の不純物を含んでいるものは、精製し直さない限りFCVには使えない。これはこれで直接燃やして燃料にする方法もあるのだが、それは後述する。

 水素ベースの燃料としては、水素とCO2を化合させて作る「e-fuel」と、水素と窒素を化合させて作る燃料アンモニアがある。e-fuelはガソリンの代替としての利用が期待されており、燃料アンモニアは、主に発電所での利用が見込まれている。アンモニアは毒性があるため、民生用にはハードルが高い。しかしインフラ電力の発電など専門家がハンドリングすることが前提なら毒性のリスクは問題にならないし、e-fuelよりコストが安い。

 いずれLCAとカーボンプライシングが導入されたとすれば、ものづくり国家、日本にとって大問題である。島国である以上、原材料を輸入するのも製品を輸出するのも船便を頼ることになる。しかしながら船は耐用年数が長く、更新サイクルは20年から30年といわれている。現在重油などを燃やして航行しているこれらの船舶が排出するCO2が、日本のあらゆるもの作りに対して、実質的な関税としてのしかかってくる可能性がある。

 現実的な話として、船舶や航空機をバッテリーで駆動するのは不可能に近いので、輸出入を成立させるためには、どうしてもカーボンニュートラル燃料が必要になってくる。それらがまとまれば需要は相当に大きいはずで、当然それを当て込んでカーボンニュートラル燃料の生産はビジネス化されるだろう。それに便乗してクルマもカーボンニュートラル燃料という動きは出てくるはずだ。

 合成系の燃料は、代替先の燃料特性にある程度合わせられることから考えると、すでに市場で保有されているクルマを全部合成燃料仕様にコンバートできることになり、CO2削減のゴールを圧倒的に早める可能性がある。のみならず、自動車メーカーは既存の内燃機関技術を転用でき、ガソリンスタンドなどのインフラもまた、カーボンニュートラル時代のビジネスに生まれ変わることができる。社会的コストの低減効果は極めて大きいのだ

Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.