クルマはどう進化する? 新車から読み解く業界動向

再度注目を集める内燃機関 バイオ燃料とe-fuel池田直渡「週刊モータージャーナル」(4/4 ページ)

» 2021年05月17日 07時00分 公開
[池田直渡ITmedia]
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水素のコスト問題に光明

 さて、カーボンニュートラル燃料の内、水素合成系の燃料に関しては、ベースとなる水素のコストが依然課題として残っている。現在のFCVではこの水素を圧縮して高圧気体としてタンクに充填(じゅうてん)しているが、近年、水素とCO2を、触媒で反応させて、高純度の「ギ酸」に変換する方法が開発された。ギ酸は、常温常圧での保存が可能で、温度と濃度に依存するものの簡単には燃えない。しかも体積当たりのエネルギー密度は水素の1000倍と発表されている。

【訂正:2021/05/19 10:35 ギ酸について当初「不燃性」と記載しましたが、正しくは、「温度と濃度に依存するものの簡単には燃えない」が正確な表現となります。お詫びし訂正いたします。】

 ギ酸から水素へは再度触媒を用いれば簡単に還元でき、かつ還元を圧力容器内で行えば、膨張圧力を使って水素をかなり圧縮できる。密度が1000倍なら、単純計算で1000気圧までは圧縮が可能ということになる。その上、この際に分離されるCO2を回収すれば、再び水素からギ酸への変換に循環的に利用できる。時間当たり生産量や生産コストはまだ詳細不明ながら、少なくとも輸送や貯蔵に関しては、旧来のガソリンよりもリスクもコストも低い。FCV用のエネルギーキャリアとして大きな可能性を秘めている。

 現時点では実験室レベルの話ではあるが、水素社会の実現のために待望の技術である。

 これだけでも驚くところだが、つい先日、豊田中央研究所から、人工光合成によって、CO2から直接ギ酸を生成する技術が発表された。驚くべきことに、光合成によって有機物を生成する効率は植物を上回っているという。ギ酸ができるということは、前述の通り、常温常圧で保管が可能で、還元時に圧縮水素化することが簡単にできるわけだ。

CO2から人工光合成でギ酸を生成する。ギ酸は水素に簡単に還元できる

 ということで最後に余談である。4月28日、トヨタは富士スピードウェイで、水素燃焼エンジンを搭載したレーシングカーのテスト走行を行った。5月21と22日に富士スピードウェイで開催される「スーパー耐久シリーズ 第3戦 富士24時間レース」に、水素燃焼エンジン搭載のカローラスポーツで出走するためだ。

水素を燃焼させる内燃機関を搭載したカローラスポーツ

 車両はGRヤリスのエンジンと駆動系コンポーネンツを、カローラスポーツのボディに移植したもので、MIRAIから転用した4本の水素タンクを、衝突から守るために、運転席と後車軸の間に積み上げて搭載した。インジェクターなどごく一部の部品を除いて、市販車の部品で構成されている。これはやがてモータースポーツにもカーボンニュートラル化の波が訪れた時のサスティナビリティを考慮したものだ。やがてプライベーターにも供給することを考えれば、高価なワークス製ワンオフパーツだらけにするわけにはいかない。

 F1では2023年にe-fuelの導入が検討されており、ポルシェは911のワンメークレースでe-fuelの実証実験を始めている。新時代の燃料に対する期待は今まさにスタートしたところだと言えよう。

筆者プロフィール:池田直渡(いけだなおと)

 1965年神奈川県生まれ。1988年企画室ネコ(現ネコ・パブリッシング)入社。取次営業、自動車雑誌(カー・マガジン、オートメンテナンス、オートカー・ジャパン)の編集、イベント事業などを担当。2006年に退社後スパイス コミュニケーションズでビジネスニュースサイト「PRONWEB Watch」編集長に就任。2008年に退社。

 以後、編集プロダクション、グラニテを設立し、クルマのメカニズムと開発思想や社会情勢の結びつきに着目して執筆活動を行う他、YouTubeチャンネル「全部クルマのハナシ」を運営。コメント欄やSNSなどで見かけた気に入った質問には、noteで回答も行っている。


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