昨今「イクメン」のキーワードで世間的に注目を集めている「男性の育児休暇取得」だが、大半の企業では環境は整っていないようだ。厚生労働省が2020年7月に公表した「令和元年度雇用均等基本調査」の結果によれば、女性の育児休暇取得者の割合は83%に上るのに対し、男性は前年度より増加しているとはいえ、7.48%にとどまっている。
しかし、中には率先して男性社員の育児休暇取得を奨励し、取得率100%を達成している企業も存在する。神戸市に本社を構える産業用機械部品の総合商社、トモエシステムもそんな企業の一社だ。18年までは男性社員の育児休暇取得は皆無だったが、19年3月に「男子育休100%宣言」を打ち出し、その後育児休暇の対象となった男性社員全員が1週間以上の育児休暇を取得。宣言通り、取得率100%を達成した。
一体どんな工夫を凝らし、取得率0%の状態から、短期間のうちに100%を達成するまでに至ったのだろうか。
トモエシステムはもともと16年から、働き方改革の取り組みを推進していた。同社が主戦場とする建設機械の市場は今後成長が見込まれている。その一方、日本全体では少子高齢化による労働人口の減少が進み、特に社員数80人と規模が小さい、同社のような中小企業では、人材確保がますます困難になることが予想された。
そこで16年から給与体系の見直しやオフィスの改装、福利厚生制度の充実といった働き方改革の施策を矢継ぎ早に実施。働く人にとって、より魅力的で働きがいのある企業を目指した。そのかいもあって、19年3月には日本次世代企業普及機構(ホワイト財団)からホワイト企業としての認定を受けた。同時に「ホワイト企業アワード 2019」も受賞した。
その授与式典の基調講演で「男性育休制度の意義」のトピックが取り上げられ、トモエシステムの柳瀬秀人社長は感銘を受けたという。同氏は早速、翌週の全社朝礼で「男子育休100%宣言」を打ち出した。
それまで同社では男性社員が育児休暇を取得した例はなかった。その背景には「業務が繁忙で職場の人手が不足している」「男性の育児休暇を取得しづらい雰囲気が職場にある」「自分にしかできない仕事や担当業務がある」「育児休暇取得により収入を減らしたくない」といった要因があると考えられた。
こうした懸念をクリアするため、同社はさまざまな施策を講じた。育児休暇取得による人手不足や代替え要員の欠如といった課題には、まず「育児休暇に対して社員が抱く先入観やイメージを改革すること」から着手した。
一般に、忌引きにより職場を一時離れることに対しては誰もが理解を示すものの、育児休暇となるとネガティブな反応が少なくない。しかし忌引きは急に発生するものであるのに対し、育児休暇は前もって予想ができる。業務の引き継ぎなどの準備期間も十分取れるので、本来ならむしろ忌引きよりスムーズに取得できるはずだ。
また、ほとんどの社員は、自身の仕事に誇りを持っているほど「この仕事は自分にしかできない」と考えがちだが、組織はそもそも1人の仕事だけで回っているわけではない。本来はチームメンバー同士が互いに補い合うことで初めて組織としての強みを発揮し、不測の時代にも対応できるようになる。そのような「仕事観」「組織観」を社員に持ってもらうよう、社内のカルチャーの醸成に努めた。
とはいえ、新たな取り組みにはどうしても抵抗や摩擦が付き物だ。それらを最小限に抑えるために、新たに育児休暇を取得する男性社員には「自分たちが後輩たちの生活を守る先駆けとなるのだ」というモチベーションを与え、同僚たちには称賛を持って受け止めるよう、経営トップが自ら社内へのメッセージ発信に努めた。
Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.
Special
PR注目記事ランキング