定年延長に向けた人事制度改革(4) シニア活用を推進しながら、組織の“若返り”も図る方法定年延長のリアル(3/3 ページ)

» 2021年05月27日 07時00分 公開
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(2)選択定年制の導入

 同社では定年延長を機に、新定年年齢を65歳に引き上げました。従来の再雇用制度では定年後に給与処遇が引き下げられていましたが、新制度では65歳までは正社員としての処遇が継続されることになります。

 一方、従来と同様に、60歳時点で定年を選択できる仕組みを残している点が特徴です。定年は60歳か65歳のいずれかで本人が選択でき、60歳到達の1年前の段階で意思確認が行われます。60歳での定年を選択した場合は、その時点で退職金の支給を受けられ、かつ特別な65歳時点での支給よりも割増しを受けることができます(65歳定年を選択した場合は、退職金の支給は65歳まで延期され、割増しの適用対象外となります)。

 60歳定年を選択する場合、退職金を受け取ってそのまま退職もできますが、従来の再雇用制度に準じた形で、嘱託社員として勤務することも可能です。この場合、60歳時点で給与の引き下げが行われますが、仕事の量や責任の程度を軽くした働き方が可能になります(条件が合えばパートタイム勤務も可能)。副業・兼業をすることを前提に、あえて60歳時点での定年と再雇用を希望する社員も出てきています。

 なお、65歳以後は定年延長で勤務した社員も、60歳時点で再雇用を選択した社員も同様に、嘱託社員としての扱いになります(65歳以後は全員が雇用されるわけではなく、会社が承認した社員のみ雇用継続することになります)。

(3)独立支援制度の導入

 同社の人事制度改革の中で目玉となるのが独立支援制度の導入です。同社シニア層の中でも、高い専門性を有した社員からは、自身の経験・ノウハウや人脈を活用して柔軟な働き方を望む声が挙がっていたことに対して、会社サイドが応えた格好になります。組織の新陳代謝を図りながら、新しいシニア活用の形を実現していくことが期待されています。

 独立支援制度の概要は以下の通りです(下図参照)。原則として55歳以後の社員を対象に、会社が提示する条件に合致する場合には、フランチャイズのような形で店舗オーナーとして独立することが可能になる仕組みです。多店舗展開をする同社ならではの業態を利用した制度であるといえます。

photo 独立支援制度の概要と基本的な運用ルール(資料出所:新経営サービス人事戦略研究所作成資料)

(4)シニア人事制度導入後の状況

 同社では、独立支援制度を含む「ネクストキャリアプラン」の全体像について全社的に説明会を実施しました。シニアの処遇改善を含む定年延長の導入を中心に、シニア層には総じて好意的に受け止められ、新制度導入後、処遇を理由としたシニア層の離職は起こっていないようであり、現在のところは新制度の効果が出ていると言ってよい状況です。

 なお、独立支援制度についてはすぐに関心を示す社員が現れ、50歳代後半の社員2人を対象に、制度開始初年度からモデル事例をつくることができました。定年を待たずに新しいキャリアを選択した社員の事例は同社内でも非常にインパクトがあり、シニア層の意識にも良い影響を与えているようです。

 今後の課題として、独立支援制度は別として、シニア層が生涯現役で活躍し続けるために必要な職場環境の整備はまだまだ十分とはいえない状況です。同社トップとしては、さらなる高年齢化に備えた店舗オペレーションの改善、設備改善、あるいは働く社員の意識改革など、生産性アップに向けた取り組みを更に加速していくことが重要であるとの認識を強めています。

著者紹介:森中謙介(もりなか・けんすけ)

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 (株)新経営サービス 人事戦略研究所 マネージングコンサルタント。中堅・中小企業への人事制度構築・改善のコンサルティングを中心に活躍。各社の実態に沿った、シンプルで運用しやすい人事制度づくりに定評がある。近年では、シニア社員活用に向けた人事制度改定の支援に多く携わっている。「定年再雇用・定年延長制度コンサルティング」に関する問い合わせはこちらまで。

 また、書籍やセミナー等を通じた対外的な発信も積極的に行っており、著書に『人手不足を円満解決 現状分析から始めるシニア再雇用・定年延長』(第一法規)、『社員300名までの人事評価・賃金制度入門』(中央経済社)、『9割の会社が人事評価制度で失敗する理由』(あさ出版)、『社内評価の強化書』(三笠書房) がある。


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