2人に1人は不眠症? 「世界一眠れない日本のビジネスパーソン」がつくられていく構造的な理由スピン経済の歩き方(3/5 ページ)

» 2021年06月01日 08時58分 公開
[窪田順生ITmedia]

寝酒カルチャー

 実際にこのような体験をしているビジネスパーソンもかなりいるだろうし、自身がそうではなくとも同僚などから一度は耳にしたことがあるはずだ。もちろん、これは日本だけに限った話ではない。先ほどのISSP国際比較調査で、日本に次いで仕事でストレスを感じる男性が多いフランス(46%)も近年は不眠症が問題となっているそうで、フランス在住のライター竹内真理氏は以下のように書いている。

 『仏国立衛生医学研究所の資料では、国民の37%がなんらかの睡眠トラブルを経験しているという。人口の15%から20%が不眠症、9%が深刻な不眠による体調不良――とある』(毎日新聞、医療プレミア2019年12月30日)

 一方で、「仕事のストレス」だけでは、「日本だけが不眠症疑いの人々がやたらと多い」という不可解な現象を説明することはできない。ストレスフルな労働環境というベースに、日本のビジネスパーソンの不眠症を増加させる別の要因がオンしていると考えるべきだろう。そこでよく言われるのが、「寝酒カルチャー」だ。

 寝る前に飲酒をする習慣自体はよその国にも普通にあるが、日本のビジネスパーソンの「寝酒」は、眠れないので酒の力で意識を失うように眠る、という“睡眠薬代わり”のパターンが多いのが特徴だ。

 少し古いデータになるが、02年にフランス医薬品大手のサノフィ・サンテラボ(当時)が、世界10カ国3万5327人を対象にした疫学調査では「眠るために飲酒をしている」人が10カ国平均では19.4%だったのに対して、日本では30%と大きく上回っているのだ。

 これは身に覚えのある方も多いのではないか。仕事で疲れ過ぎてなかなか寝付けないので、寝る前には缶ビールを数本開けないと眠れない。外で飲む場合でも、自宅の晩酌でも、とにかくアルコールの強い酒を飲んでかなり酔っ払っておかないと、布団に入ってもスムーズに眠りにつけない。職場の同僚などからそんな悩みをよく耳にしないだろうか。

 このような「睡眠薬代わりの飲酒」が、日本を世界有数の「不眠症大国」に押し上げた可能性がある。久留米大学病院の睡眠障害外来では、受診した50歳以上の不眠症の人のうち、実に8割以上が睡眠薬代わりに飲酒していたという報告がある。つまり、「仕事が辛くて眠れない→酒を飲んで酔って眠る→酒を飲んでも眠れなくなる→不眠症になる」という負のスパイラルが起きている恐れがあるのだ。

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