“鉄道観光ビジネス”再起動、失われた2年間をどう取り戻すのか杉山淳一の「週刊鉄道経済」(4/10 ページ)

» 2021年07月02日 11時46分 公開
[杉山淳一ITmedia]

 まず「国鉄の電車急行」の再現にこだわった。その時代を懐かしむ人々を集客できる。国鉄時代と同じ「乗車券のほかに急行券が必要、自由席」という販売方式もこだわりの一つ。複線区間を快走し、主要駅以外はスキップする運行も、かつての北陸本線の急行を再現する。

 ただし、もっとも海がよく見える区間では徐行して景色を楽しんでいただけるようにした。アテンダントによる見どころポイント解説もある。そこがただの急行ではなく、観光という冠詞が付く理由である。今となっては珍しくなりつつある「車内販売」もある。6月29日の試運転では直江津駅で駅弁の立ち売りも行われた。古き良き時代の旅がある。

 そして「地域への貢献」だ。プラス500円で乗れる急行電車は、地元沿線の人々も手軽に楽しめそうだ。多くの地方都市と同様、この地域もマイカー利用が多く、鉄道利用は高校生の通学が主になっている。

 そこで、ふだん鉄道に乗らない人々に、鉄道の旅を楽しんでもらいたい、えちごトキめき鉄道の存在を印象づけたい。そのためにも乗っていただく仕掛けが必要だった。

 さらにいうと、地域経済の貢献度は「急行電車」のほうが大きい。「えちごトキめきリゾート雪月花」の定員は45人。「急行電車」は着席定員150人以上、立ち席も含めればもっと多い。急行電車のほうが、乗車前後に食事をしたり、観光施設を巡ったり、宿泊したりする人々を多く集められる。

 「雪月花」の乗客が金持ちだからといって、1回の食事で3人前を食べたり、1泊につき3部屋を予約したりはしない。不動産を買ってくれるかもしれないけれど宝くじ並みの期待値だろう。

 身も蓋(ふた)もないことを言えば「観光急行」は「薄利多売」という商売の基本を踏まえている。それは同社の収益のためだけではなく、地域経済の活性化にも貢献する。

ボックスシートが懐かしい。急行形電車も普通列車として使うため、扉付近はロングシートに改造されてしまった。しかし、ロングシートの向かい側から2つの窓越しに見る海の車窓も良い

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