【決算発表】コロナ禍で成長率鈍化も、「名刺の次」で見据えるSansanの成長ストーリー(1/3 ページ)

» 2021年07月15日 05時00分 公開
[早船明夫ITmedia]

 クラウド名刺管理サービスを提供するSansanは7月14日、2021年5月期通期の決算を発表した。同日開催された決算説明会では、CFOの橋本宗之氏が通期業績と22年5月期見通しに関し説明を行った。

 今回の決算では、新型コロナウイルスの影響を受けながらも粘り強く成長を続けた名刺交換サービス「Sansan」の実績と、クラウド請求書受領サービス「Bill One」の順調な立ち上がりが見られた。

 記事内ではSaaS企業の分析・データ提供を行う「企業データが使えるノート」SaaS KPIデータなどを基に、公表内容の詳細と今後の見通しを解説していく。

コロナ禍で成長率鈍化も底堅い利用でARRを伸ばす

 21年5月期の業績は、売上高が前年同期比21.1%増の161.8億円、営業利益は前年をやや下回る7.36億円で着地した。

 今回の決算説明資料では、SaaSビジネスの定常的な収益であるARR(Annual Recurring Revenue)を全プロダクトベースで開示した。名刺管理サービスSansanやEight、Bill Oneを合算したARRは161.1億円となり国内では最大のSaaS企業となっている。

国内SaaS上場企業ARRランキング

 この1年、非対面が日常となったビジネスシーンにおいては名刺交換が減少し、Sansanにとって大きな向かい風となった。

 今回公表した資料の中でも、「短期的には、不透明な事業環境が継続し、企業の投資行動やマインドが慎重化したことで、Sansanなどの新規契約の獲得スピードが鈍化し、売上高成長率の低下といったマイナス影響が生じた」と、自社のこの1年を振り返っている。

 コロナ禍が始まった20年5月時点では、Sansanユーザーの名刺データ化枚数が前年同期比65.1%減となり、一時的にサービス利用の機会が激減した。その影響もあり、ARR成長率は前年の30%増水準(売上高ベース)から22.6%増へと成長鈍化を余儀なくされている。

 その一方で、プロダクト定着度の底堅さというポジティブな面も見える決算となった。

Sansan12カ月平均解約率の推移

 上記スライドは、Sansanが決算説明資料の中で公表している12カ月平均の解約率を時系列で示したグラフだ。

 対面での名刺交換機会が少なくなっているにもかかわらず、名刺管理サービスSansanの解約率はわずかに上昇したのみであり、大幅な悪化が見られない。契約当たり月次売上高も前年同期比4.9%増となるなど、新規顧客獲得だけでなく単価の上昇にも成功している。

 思いもかけない逆風下のビジネス環境とはなったが、Sansanが企業に深く浸透していることが明らかになった1年となった。

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