企業の親に対する取り組みは、現在、新卒採用市場においてどうなっているのだろうか。新卒市場の動向に詳しい学情の執行役員、歌津智義氏に話を聞いた。
「2014年頃には、メディアで『オヤカク』が報じられることが増えました。その後、導入し継続している企業には定着し、試してみても期待通りの成果がなかった企業は既にやめています。これから検討したいという企業はあまりなく、する企業はする、しない企業はしないと定着したような状況です」(歌津氏)
そもそも、親への取り組みはどのような背景から生まれたのか。
現在、就職活動中の22卒学生の多くが生まれたのは1999年。99年の人口動態をもとに両親の平均年齢を算出してみると、父親、母親ともに53歳。スマホを駆使し、インターネットでの情報収集が身近な世代だ。
親世代がインターネットで企業の口コミ情報をチェックできるようになったという世代的な変化や、ブラック企業問題への関心の高まりが、親対策の潮流を生んだのではと歌津氏は指摘する。
離職率が高いなど、一般的に労働環境としてあまりよくないイメージを持たれている業界の人事担当者が、悪印象を払拭(しょく)するために取り組むケースが多いという。
また、一般的に親子の“就活の常識”には世代間ギャップがあることも理由の一つだ。その最たるものはITソフトウェア業界だという。
「学生からは人気の高い業界の一つで、親御さんも成長する分野だとは知っています。しかし資本金が少ない会社も多く、事業内容もさまざまなため、本当に大丈夫なのかと心配する親も多いのです」(歌津氏)
親対策のみに限らず、健全経営を目指す社会的な流れとして、企業は第三者からの評価を重視するようになってきている。求人メディアには過去3年間の離職率、有給取得率、女性役員比率を公開することが一般的だ。
時には業績や成長の度合いよりも、環境問題や女性活躍推進などの社会問題へのアプローチをどうPRしていくか、また「ブラック企業ではないと、いかに分かってもらうか」(歌津氏)に、担当者の関心が移っているのだ。
こうした背景から、これまで親も参加できる説明会を行う企業もあったが、コロナ禍をきっかけにオンラインに切り替えざるを得なくなった。代わりに、動画などインターネットで公開する素材に注力しているという。
また、コロナ禍で、学生も対面で情報を得る機会が減った。大学の対面授業やサークル活動、OB訪問といった情報交換の機会が限られ、友人や先輩に相談しづらい。こうした状況から、相談できる社会人として親の存在感が高まっていることも考えられるという。
企業がさまざまな趣向を凝らして行う親へのアプローチは、学生にはどう受け止められているのだろうか。
「親御さんにも理解してもらいたいという姿勢が伝われば、一定の理解は得られるようです。しかし、親に内定承諾書への署名を求めるなど、学生を束縛し、強制させるためのようなものは、学生が企業への疑いを強め、身構えてしまいます。学生の志望度がどのくらいのレベルなのかを踏まえて、やり方を考えていくべきでしょう」(歌津氏)
親へのアプローチの一環で、内定者の自宅訪問を行ってた企業の多くは新型コロナウイルス流行に伴い中止にしているが、なかには続けている企業もあるという。
21卒で入社した筆者は正直なところ、自宅訪問そのものに抵抗がある。そのうえコロナ禍においても自宅訪問を続けているとなれば、内定者が先行きに不安を覚えるのも当然だろう。親へのアプローチを検討する際には、内定者本人の意向を確認することも忘れずにいてもらいたい。
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