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“昭和モデル”を壊して静岡を変えたい わさび漬け大手・田丸屋本店の意思地域経済の底力(2/4 ページ)

» 2021年08月19日 05時00分 公開
[伏見学ITmedia]

原点回帰

 では、既存のビジネスモデルをどのように変えていくのか。1つは、ターゲットを団体から個人の観光客へシフトする戦略だ。

 すでに県内のDMO(観光地域づくり法人)などと連携を進めている。自社だけではなく、関連団体や他企業とともに、静岡全体で個人の観光客をどう取り込んでいくか知恵を絞る。その中で、田丸屋本店の商品をアピールしていく。

 「マスの観光を相手にしたビジネスは数年で終わりを告げると思います。コロナでリセットされたことを良い機会だととらえないといけません。次の観光マーケットをどう獲得していくかがチャレンジです」と望月社長は意気込む。

望月啓行社長。1963年生まれ。95年に味の素を退社後、田丸屋本店入社。2007年に5代目として社長就任

 もう1つが、地元への訴求だ。わさび漬けは静岡発祥であるにもかかわらず、観光土産というイメージが強い。実際、地元の人にとって、わさび漬けは、日常の食卓に必ず並ぶほどのなじみはないようだ。

 地味な作業だが、SNSでプロモーションしたり、チラシを配ったりして、地元客にも目を向けてもらえるよう、原点回帰を図る。

 「土産店は、基本的に商品が過剰包装で、普段使いしにくいです。そこを見直して、簡易包装の商品も並べるなど工夫しなくてはなりません。観光客相手の土産屋ではなく、わさびの専門店として、地元の人にも足を運んでもらえるようにしたい」

 実際、田丸屋本店では、わさび漬けだけでなく、ねりわさびやドレッシング、ふりかけ、菓子類など、わさびを使った幅広い商品ラインアップをそろえている。

わさびの専門店として、地元の人たちにも活用してもらいたいという

 店舗の改革についてはこれからだ。ただ、以前から地元向けに取り組んでいることもある。工場で年に一度開かれる感謝祭は、わさび漬け作りの体験教室を開いたり、工場内を見学できるようにしたりしている。縁日のような出店もある。また、日ごろから小学生などに課外授業をするなど、わさびにもっと親しみを持ってもらう広報活動にも力を入れている。

 「わさびの代表メーカーと呼ばれるからには、わさびマーケットが広がるような取り組みをしなければなりません。これは自分たちのためだけでなく、地域の産業にも関わってくるからです」と望月社長は力を込める。

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