クルマはどう進化する? 新車から読み解く業界動向

ガソリンには、なぜハイオクとレギュラーがある?高根英幸 「クルマのミライ」(3/4 ページ)

» 2021年09月27日 10時35分 公開
[高根英幸ITmedia]

れい明期のハイオクガソリンから無鉛ハイオクへ

 ハイオクガソリンの登場によって、エンジンの性能は向上した。今のように点火時期や燃料の噴射時期を緻密にコントロールできるようになるまでは、燃えやすいレギュラーガソリンではノッキングの発生を抑えることが難しかったことから、負荷の大きなクルマ、大排気量の高出力モデルにはハイオクガソリンが必須となった。

 欧米ではハイオクガソリンとレギュラーガソリンが早くから用意されていたが、日本では50年代に入るまでハイオクは国内では製造されていなかった。日本車でハイオクガソリンを必要とする車種は存在しなかったからだが、当時は欧米からの輸入車も多く、輸入されたハイオクガソリンは都市部のガソリンスタンドに置かれている程度だったようだ。

 日本で国産初のハイオクガソリン「アポロガソリン」が出光興産から発売されたのは、52年のことだ。つまり、それまでハイオクガソリンは輸入品の高級品であり、もっといえば当時はガソリンスタンドの数も非常に限られていた。

 やがて高度成長期を迎え、70年代に入る頃には日本車でも山道など負荷の高い地域を走破するためにハイオクガソリンを用いることが石油元売りのPRなどによって普及する。この頃から、石油元売り各社は高利益商品としてのハイオクガソリンの販売に力を入れてきた。

 ただし前述のように、当時は有鉛ガソリン、すなわちガソリンにテトラエチル鉛などのアルキル鉛をごく微量だが添加していた。人体にとって鉛は有害物質、それも猛毒である。しかし自動車業界や石油業界は、長い間この事実を明らかにしてこなかった。ハイオクガソリンの無鉛化はオイルショック以降に徐々に始まり、80年代後半になってようやく完全無鉛化が達成された。

 このように非常に長い時間が掛かってガソリンは品質を向上させてきたのである。90年代には無鉛ハイオクを元売り各社がこぞってブランド化して、モータースポーツにも積極的にスポンサーとして参加して高性能なイメージを定着させていった。

 90年代のターボ車ブームを支えたのは、そうした無鉛ハイオクガソリンだった。当初は輸入車のために必要とされたハイオクガソリンは、無鉛化によって排ガス規制をクリアしつつも高性能化を追求する日本の自動車メーカーにとって、エンジン性能を追求できる格好の材料になったのである。

 高性能車でも純正指定はレギュラーのままであったものの、ハイオクガソリンを入れることで軽微なノッキングを解消してエンジンの性能を安心して楽しめることから、クルマ好きを中心にハイオクガソリンを選択する風潮が生まれた。そして、それを下地に自動車メーカーもハイオクガソリン仕様のスポーツエンジンを搭載した市販車を作り出すようになるのだ。

 当初は輸入車のためだったハイオクガソリンが、クルマ好きに支持されて国産車にも使われるようになり、やがて無鉛ハイオクガソリンが全国に普及したことから、今度は自動車メーカーがその環境を利用したのである。その一方で、全体としては割安なレギュラーガソリンを支持するユーザーが圧倒的であるのは揺るがなかった。こうしてガソリンは、その存在意義を変化させながらハイオクとレギュラーの2商品が併売されることを続けてきたのだった。

ガソリンは原油を輸入し、日本国内の製油所で精製されているが、原油からはさまざまな原料が取り出せるため、消費量と生産量がアンバランスになる事態が起こる。そのためガソリンは輸入と輸出のどちらも行うことで国内在庫量を調整している、珍しい商品でもある

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