クルマはどう進化する? 新車から読み解く業界動向

スマホがクルマのキーになる時代 進化する窃盗犯手口との続くイタチごっこ高根英幸 「クルマのミライ」(2/4 ページ)

» 2021年10月11日 07時55分 公開
[高根英幸ITmedia]

手口が巧妙化する窃盗犯

 ドアロックを開錠するのは、ドアのキーシリンダーをピッキングする以外にも、ドアロック機構に直接アクセスして解除する方法もある。スイッチ一つでドアロックを施開錠できる機構は、結局はアクチュエータがドアロック機構を操作しているので、物理的にドアロックを解除すれば、キーの存在は無視できるわけだ。

 こうした整備業界や錠前業界でのみ流通している特殊な工具を悪用して、ドアロックを開錠して車上荒らしなどを働く自動車窃盗犯も一定数存在し続ける。だから愛車が大事なオーナーは、純正のキーやセキュリティシステムのほかに、高性能なセキュリティシステムを後付けしたりしているのである。

 ただしイモビライザーを搭載したクルマの場合、ドアロックは開錠できても、イグニッションをオンにすることは難しい。イモビライザーとは、キーとクルマの整合性を判断する半導体を使ったセキュリティシステムのことだ。

 これは米国のGMが最初に始めたもので、シンプルなキーの根本に小さなチップを組み込んだものだった。そして防犯効果としては高い威力を発揮するため、今や乗用車のほとんどが採用するまでになった。

 それでも前述のロックスミスは、専用の機器を用いてイモビライザーを再設定したり、キーを複製できたりするようになっている。当然のことながら自動車ディーラーでもイモビライザーの再設定などは行える。

 もっともロックスミスたちが使っているのはディーラーと同じ機器ではなく、幅広いメーカーに対応するいわばイモビライザー用の専用ツールだ。

 こうした裏技的デバイスは専門のメーカーが開発、販売しており、自動車メーカーや部品メーカーが正規で技術提供を行っているわけではない。どうやって情報を入手しているのかは不明だ(おそらくはメーカーOBから基本情報を受け取り、高いスキルのエンジニアが開発しているのだろう)。

キーレスエントリーからスマートキーへの進化

 それとは前後して90年代初めあたりから、輸入車の一部ではキー操作とは別にドアロックをボタン操作で行えるリモコンドアロックが装備され始める。これは奇想天外なアイデアをクルマに盛り込むのが得意なフランス車から始まった。

 これがキー一体型のリモコン、キーレスエントリーとなって90年代後半に普及していく。2000年以降はドアロックはスイッチ操作で行うが、イグニッションはキーを差し込んで回すというクルマが主流になった。

 キーレスエントリーには、イモビライザーもさらに高度化されて組み込まれるようになり、クルマのキーは急速に多機能化して大型化していった。

 そして今やスマートキーが一般的になり、ドアロックはスマートキー本体のスイッチ操作、あるいはキーを携帯している者がドアノブに触るだけで施開錠できるようになった。これは便利で、ドアキー穴が省略されて防犯効果も向上、暗号化によりセキュリティの面でも高められている。イグニッションもスマートキーが手元にあれば、ボタンを押すだけでエンジンの始動と停止が行えるようになった。

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