クルマに乗り込み、エンジンを始動させる。これには2段階の認証が必要だ。つまりドアロックを解除する、イグニッション(クルマの電装系)をオンにしてエンジンのスターターを回す、という2段階である。
ドアの開錠をすることで、クルマは正当なドライバーが乗り込めることにつながる。今のように頭脳を持ったクルマになる以前から、アナログな手法でクルマと持ち主は結び付いていたのだ。
古来、クルマのセキュリティにはキー(鍵)が使われてきた。クルマやバイクだけでなく、建物や金庫など大事なモノを守るためにはキーは欠かせないデバイスだった。
特にクルマは高額商品であり、車内にはカーナビ、カーオーディオといったアフターパーツや貴重品などが保管される場合もあることから、盗難防止の目的からキーは進化してきた。といっても、1980年代までのクルマのキーは、キーシリンダーとキーの形状が合えば回って開錠施錠できるだけの、シンプルなシステムが維持されてきた。
最近のクルマはほぼスマートキーを採用し、ドアロックの施開錠はボタン操作か、ドアハンドルにタッチすることで行える。セキュリティが向上したと思いがちだが、自動車窃盗犯も高度化しており、高額人気車が狙い撃ちされる傾向にある変化が訪れたのは90年代だ。好景気の影響からクルマの高級化、高性能化が進んだこともあってキーの複雑化が進んだ。今でも使われる外溝の両面キー(平形キーの向きを問わない裏表同一形状)だけでなく、さまざまな形状のキーが登場した。
というのもピッキング(防犯上、詳しい記述は避けさせていただく)されてドアロックを開錠されるケースが続出したからだ。自動車メーカーはキーにさまざまな工夫を施し始めた。例えば英国のジャガーは、六角断面をいくつも使ったキーを用いていたし、BMWなどディンプル型のキーを用いるメーカーも現れた。
ドイツ車には内溝キーが使われるようになり、内溝でも鋸(のこぎり)状のキー形状ではなく工作機械の回転刃で削り出した滑らかな形状のウェーブキーと呼ばれるタイプも登場している。外溝でも外枠はブランク(溝を切る前の素材としてのキー)状態と同じ形状を維持してピッキングを困難にするなど工夫を凝らしている。
しかし人間が考えた防犯システムは、所詮人間によって破られるものだ。その証拠に、これまで登場したクルマのキーは、ほぼ全て開錠できたり、複製できたりする。
ロックスミス(錠前師)と呼ばれる、キーのスペシャリストをご存じだろうか。この職人たちにかかれば、キーをなくしたクルマのドアロックを開錠するのは朝飯前だし、なくしたキーを新たに作ってくれる(その場合、それなりの費用はかかるが)。
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