クルマはどう進化する? 新車から読み解く業界動向

スマホがクルマのキーになる時代 進化する窃盗犯手口との続くイタチごっこ高根英幸 「クルマのミライ」(4/4 ページ)

» 2021年10月11日 07時55分 公開
[高根英幸ITmedia]
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クルマのセキュリティシステムに頼り過ぎは危険

 トヨタの新しいランドクルーザーは指紋認証システムを採用してよりセキュリティを高めているが、スマホやPCではとっくに導入されているだけに、技術的な目新しさはない。クルマにそれが搭載されたことが新鮮なだけだ。

 それどころかテスラやEVベンチャーの中には、スマホをキーとして利用できるところも登場している。しかし便利であるが故に、スマホを紛失したり故障してしまったりした時のリカバリーを考えていないと、出先で立ち往生するという困った状況も起こり得る。結局はスマホキー以外のキーも身に付けておく必要があるのだ。

 それにエンジンのスタート/ストップボタンでオーナーを認識する仕組みがここまで高度化しても、末端の入力部分からの防犯だけを考えているようでは、この先も自動車窃盗犯からクルマを守ることは難しいだろう。

 車内通信に侵入してドアロックやイグニッションの認証を制御してしまうようになっている現在では、指紋認証を導入したところで、それ自体には抑止効果はない。現在はクルマの外装から車内通信のハーネスにCANインベーダーを割り込ませて、スマートキーよりも上流のシステムにアクセスしてドアロックやイグニッションを作動させてしまうのだから。

 10年前から、クルマのハッキングに対するセキュリティの重要性を説いていたサプライヤーは存在したが、当時はまさかそれが自動車盗難の手口として主流になるとは想像できていなかった。しかしOTA(無線により車載ECUのアップデートを行う技術)が導入され始めた現在、高級車ほど解析に手間を掛けて盗難にあうリスクが高まっていることは無視できなくなっている。

 しかし車内通信に幾重ものファイアウォールを設定してセキュリティを高めるようなことはすでに施されていることであり、むしろドアロックやイグニッションシステム自体を別回路として独立させるなど抜本的に変更する必要があるだろう。

 高度なシステムでも、多くの車種に搭載されれば、それが自動車窃盗犯グループに解析を進めさせることにもつながるから、高級車でも車種毎に独自性の高い防犯システムを用意する必要もあるハズだ。市販のセキュリティシステムにしても、窃盗犯は研究して突破する方法を編み出すであろう(それでもまずはセキュリティが追加されていない車両から狙うので、抑止力はある)から、結局はいたちごっこが続くことになる。

 つまりクルマ本体のセキュリティシステムに期待するのは限界がある、ということだ。そしてスマホキー以上に便利になるとすれば人体に埋め込んだチップをキー化するくらいしかあるまい。つまり利便性も、そろそろ限界に近付きつつある。

 日本では、そもそも住環境の割に車両本体にお金を掛ける傾向が高いことも、自動車窃盗犯をのさばらせている背景にあるのではないだろうか。高級車を自宅隣や月極駐車場にただ止めているオーナーは、自動車窃盗犯に標的を提供してしまっていることにそろそろ気付くべきだ。高級車は、それなりのガレージに収めた方がいい。

筆者プロフィール:高根英幸

芝浦工業大学機械工学部卒。日本自動車ジャーナリスト協会(AJAJ)会員。これまで自動車雑誌数誌でメインライターを務め、テスターとして公道やサーキットでの試乗、レース参戦を経験。現在は日経Automotive、モーターファンイラストレーテッド、クラシックミニマガジンなど自動車雑誌のほか、Web媒体ではベストカーWeb、日経X TECH、ITmediaビジネスオンライン、ビジネス+IT、MONOist、Responseなどに寄稿中。近著に「ロードバイクの素材と構造の進化(グランプリ出版刊)、「エコカー技術の最前線」(SBクリエイティブ社刊)、「メカニズム基礎講座パワートレーン編」(日経BP社刊)などがある。企業向けやシニア向けのドライバー研修事業を行う「ショーファーデプト」でチーフインストラクターも務める。


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