共同通信の記事が取り上げていた20年の自殺対策白書はまだ正式に公表されていないため、元データとなっている警察庁の自殺者数データを参照してみます。女性のうち、原因・動機が「経済・生活問題」に分類された内訳を詳細項目ごとに抽出し、令和2年と令和元年で比較した表が次のものです。
前年比で増加しているものの中で、特に「失業」「就職失敗」「生活苦」については、非正規女性の数が減少したことが直接的に影響していそうな項目です。もし今後、正規でも人数減少に転じるようだと、「失業」「就職失敗」「生活苦」の数字はさらに増加してしまうかもしれません。
次に、「勤務問題」によって自ら命を絶った女性の原因・動機の詳細項目について、令和2年と令和元年で比較したのが以下の表です。
「経済・生活問題」の増加数合計が10人だったのに対し、「勤務問題」は89人。共同通信の記事にあった通り、「経済・生活問題」より「勤務問題」の方が増加幅が大きくなっています。全ての項目で前年を上回っていますが、特に顕著なのが「仕事の失敗」「職場の人間関係」「職場環境の変化」です。
非正規女性の減少による直接的影響がありそうな「経済・生活問題」よりも「勤務問題」の方が増加幅が大きいというのは、一見すると不思議な印象を受けます。しかしながら、非正規女性が減少した背後で、職場に残った働き手にもさまざまな影響が起きている可能性はありえます。特に「仕事の失敗」「職場の人間関係」「職場環境の変化」に影響を及ぼしそうなケースとして、3つ挙げたいと思います。
コロナ禍などの影響で職場全体の業務量が減ったり職務担当を見直したりした結果、非正規女性が担当していた業務がなくなり、雇用継続の条件として別の職務への転換を打診した職場もあると思います。
例えば、事務業務を縮小する一方で営業部隊を強化するので、インサイドセールス担当に配置換えすることに同意した働き手だけが雇用継続できたようなケースです。慣れない仕事かつ希望しない職務に転換した人の場合、「仕事の失敗」が生じやすいかもしれません。
非正規女性の数は減ったものの、業務自体がなくなっていなければ、その業務を誰かがカバーすることになります。同一労働同一賃金への対応を進めた関係で正規と非正規の担当業務を明確に分けた職場の場合、統計では正規の女性の数は増えていたものの、退職した非正規女性が担っていた業務が、職場に残った別の非正規女性たちだけに上乗せされて負荷を増やしたケースも考えられます。
結果、(1)と同様に「仕事の失敗」につながりやすくなったり、残業が増えるなどして「職場の人間関係」や「職場環境の変化」にも影響を及ぼしているかもしれません。
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