「M&Aと人事」という観点で、まず経営陣が留意すべきことは何か。それは「M&Aに直面した従業員たちは、どのような意識や感情を抱くのか」を理解することだ。
ここで、当社クレイア・コンサルティングが2016年に実施した調査結果をご紹介したい。この調査はM&Aの際、買収された側の企業で働いていた従業員400人を対象に、どのような感情を抱き、さらにその後どのような行動を取ったのかインターネットで聞いたものだ。
調査の結果、被買収企業の従業員の4割以上がM&Aの発表時に転職を検討し始め、M&Aが実施された後数年以内に3割の従業員が退職していた、ということが明らかとなった。
M&Aというイベントは通常ごく一部の関係者のみで極秘に検討が進められる。そのため、多くの従業員にとってM&Aの発表は晴天の霹靂(へきれき)である。自らが所属する会社がある日突然他の会社に買収されることを知った従業員は、まず「会社を売却しなければならないほど現在の会社の経営状態は良くないのか?」との疑念を抱く。
そして、今後自分の雇用保障はどうなるのか? 勤務地は変わるのか? 仕事内容はどうなる? 給与は維持されるのか?──といったさまざまな不安が頭をよぎる。そして中には、この機会に転職を検討する従業員も出てくる。買収直後は一時的に様子見の態度を示していた従業員も、買収後1〜3年が経過する頃には一定程度の割合の従業員が離職を選んでいる実態が明らかとなった。
このように、M&Aというイベントはそれがどのような形態であっても、決して歓迎されるものではなく、否定的に受け止められることが多い。小規模な企業が大企業に買収されるケースであっても同様の感覚を持つ従業員は一定程度いるだろう。例えば、給与や福利厚生はよくなる一方で、今後は今まで以上に厳しく結果を求められるのではないか? といった不安を抱く従業員が一定人数出てくる。
上記の調査では、買収する側の企業の従業員の声までは拾えなかったが、筆者の過去の経験では、買収側の従業員からも少なからず不満が生じることがある。例えば「なぜあの会社をあれだけの高値で買収したのか経営陣の意図が全く分からない」「あの会社を買収したら買収先の従業員の労働条件が引き上がり、結局その分の投資がわれわれに回ってこなくなるのではないか?」といった反応だ。
このように、M&Aに対しては買収側・被買収側どちらの従業員も否定的な感情を抱きやすいのだ。それゆえ、M&Aを実行する場合、買収側であっても被買収側であってもそれぞれの従業員へのメッセージの発信の仕方には十分配慮する必要がある。
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