攻める総務

取引先の請求書を電子化させる交渉テクニック自社だけでなく(3/4 ページ)

» 2021年10月20日 07時00分 公開
[企業実務]

【2】社内プロセスの見直し

 請求業務の改善にあたっては、承認までの社内手続きを見直すことも必要かもしれません。既存の業務サイクルからの変化を嫌う従業員もいるかもしれませんが、こうした人には「社内一丸としての働き方改革」「テレワーク対応のため」として理解を得ることも重要です。社内横断的なプロジェクトとして、改善を検討されてはいかがでしょうか。

 例えば、社内における承認を、紙での回付や押印で行っている場合は、これを簡略化できるかを検討することも必要です。全体の手続きが一貫してペーパーレスになっておらず、一部でも紙の手続きが残っていると、最終的な手続きにあたる請求業務も電子化しづらいのが実情です(図表1)。

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 なお、この全体の手続きの一部に「取引先」が含まれることが、請求業務における電子化を難しくする一因といえます。社内承認のペーパーレス化で有効な改善案は、システム導入です。

 このほかの改善点として、紙の請求書等への押印が挙げられます。請求書等への押印は、要件として求められているものではなく、商習慣といえます。他社から発行されている請求書を見れば分かる通り、押印のないものも存在します。近頃騒がれていた行政手続きにおける押印の廃止についても、もとは本人確認や意思表示としての意味で押印が用いられていたものとされていますが、実務的な意味に乏しいため廃止されています。自社における押印の意味は何かを問うことも必要です。

 押印を廃止したり、電子化したりすると、不正が起こりやすくなるのでは、という漠然とした懸念が見られます。しかし、こうした不安は、結局のところチェックの仕組みによると考えます。紙であっても、社内管理がいい加減であれば、当然に不正は起こりやすくなるのであって、押印や電子化とは関係ありません。

 請求にまつわる不正の実例としては、関与者が複数でなく目が行き届きにくいことや、担当者が勝手に請求書を発行して入金を受け取っていたこと、経理担当者の振込依頼を承認者がチェックしていなかったなどの事例があります。

 近年急増している不審な請求については、誤った振込みを防ぐため、振込先の変更要請があった場合に電話確認の手法を織り込むことも一案です。自社の手続きの流れを図解して、効率化や不正を防ぐための再検討も重要です。

【3】税法上の保存要件

 税務とペーパーレス化の関係について補足しておきます。税法上の扱いでは、帳簿も請求書等も紙での保存が原則とされていました。これが、2021年度税制改正により、2022年以降における保存ルールが変更されます。

 具体的には、これまで電子データで自社が作成した帳簿等を保存するには、電子帳簿保存法において税務署長の承認が必要でしたが、この承認手続きが廃止されます。従来は、電子データで作成した請求書を印刷して郵送していた場合でも、承認を得ていないことから電子データ(自社の控え)は紙で保存していたことがほとんどでしたが、今後は要件を満たせば電子データでの保存も可能です。

 例えば、請求書発行において郵送する請求書と発行した自社控えを重ね合わせて押印し、自社控えを保存している場合です。前述の通り、押印は要件ではなく商慣習ですから、自社控えも電子データの保存で構いません。自社の請求方法は、最終的な保存方法が影響していた可能性もあるため、この点でも見直しが可能です。「なぜ紙で作成しているのか」を関係各所で共有し、理解を得ていくことも必要です。

 なお、電子データで作成した請求書等を印刷せず、電子データのまま取引先に送信した場合は「電子取引」という区分に該当します。この場合、2022年以降において紙に印刷しての保存は認められません。保存方法については、規定を作成しての保存方法などが認められます(図表2)。詳しくは、国税庁が提供する電子帳簿保存法Q&Aの参照と、顧問税理士への相談をおすすめします。

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