さらに、2022年春にはハウスプリペイドに非接触決済機能「iD」を搭載する予定だ。これは、プリペイドにチャージした残高を、iD加盟店で決済に利用できるようにするもの。ハウスプリペイドは自社内でしか使えないように囲い込むのが狙いでは? と思うかもしれない。しかし、ここに逆転の発想がある。
実はiDで決済が行われるとき、店舗側はiDのカードの発行企業(イシュア)という位置づけになる。そして、顧客が他の店舗でiD決済を行うと、今度はその決済手数料が受け取れ、新たな収入源となる仕組みだ。
「顧客にとっては利便性が上がる。スーパーにとっては発行元になることで決済手数料がもらえる」(楠木氏)と、これまでコストだった決済の仕組みを、新たな売り上げに変えてしまうことができるわけだ。
ハウスプリペイドにチャージされた残高を、他の加盟店で利用できるようにすれば、今度は発行企業として決済手数料が受け取れる立場になる(アララ資料より)
ハウスプリペイドはサーバに残高を記録するセンターバリュー型の特性を生かし、ネット決済でも利用できるようになっている。店舗が運営するECサイトでログインすれば、プリペイドの残高を用いて決済が可能だ。
では、食品スーパーなどでは今後、ハウスプリペイドへの転換が進むのだろうか? そうではなく、共通決済サービスとハウスプリペイドは共存関係にあると、楠木氏は言う。
「PayPayはライバルではない。汎用的なクレカやPayPayは集客ツール。一見のお客さまには、持っている決済手段で決済してもらう。そのあとロイヤルカスタマー育成が課題になるので、そのツールとしてハウスプリペイドを使ってもらう。ハウスプリペイドならば、減らせたコストを顧客向け割引などのインセンティブに回すこともできる」
派手なキャンペーンと広告で、クレジットカードやコード決済ばかりがキャッシュレスのように思いがちだが、アララキャッシュレスのように、水面下ではキャッシュレスの多様化が始まっている。
- 客単価が1割増 もう1つのキャッシュレス、店舗のプリペイドカードが伸びる理由
「◯◯Pay」の話題が尽きることがないが、その裏側では各店舗が発行する専用のプリペイドカード(ハウスプリペイド)が活況だ。事前にチャージするという仕組みが、強力な囲い込み効果を発揮する。また、ポイントカードに代わり、スマホと連携することでCRM利用も進みつつある。
- PayPay、10月から決済手数料有料化1.6%に 他社を大きく下回る
PayPayは、これまで無料としてきた中小店舗向け決済手数料を10月1日から有料化する。月額1980円(税別)の「PayPayマイストア ライトプラン」への加入を条件に、決済金額の1.6%とする。クレジットカードが2.5〜3.75%、他のコード決済が2〜3%程度の手数料を課しているのに比べて安く、競争力を維持する狙いだ。
- コード決済市場規模4.2兆円 1年で規模3.5倍に キャッシュレス推進協議会
キャッシュレス推進協議会は、2020年のコード決済の利用状況データを公表した。2020年の決済金額は4兆2003億円となり、19年の1兆1205億円から約3.5倍に増加した。また月間アクティブユーザー数(MAU)は19年の1854万人から3636万人へと倍増した。
- 消える月謝袋 会費の支払いもキャッシュレス、会員管理も行う「会費ペイ」が急成長
習い事の月謝といえば、毎月封筒に現金を入れて手渡しし、ハンコを押してもらう月謝袋を思い出す。しかし、コロナ禍の非接触ニーズ増大にともない、こうした会費の支払いもキャッシュレス化が急速に進展している。メタップスペイメントが提供する「会費ペイ」は、個人や中小事業者を中心に利用する加盟店が3000店を突破した。
- 業界のルールはPayPayが決める 黒字化への道筋(後編)
コード決済側から見たPayPayとキャッシュレス決済全体から見たPayPayの印象が異なっていると感じる方がいるかもしれない。一方この分野でPayPayが圧倒的シェアを誇っていることは確かだ。つまり、同じ土俵で競合が勝負する限り、PayPayの施策に毎回引っ張られるということを意味しており、この分野におけるルールメーカーがPayPayになったということは揺るぎない事実だ。
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