多くの叱責妄信型上司が犯しているもう一つの過ちは、「怠慢が原因という思い込み」です。
中には本当に怠慢が原因で、叱責によって気合が入り成長できる部下もいるかもしれません。しかし、一生懸命取り組んでいるのにうまくできない部下が、怠慢と見なされてしまうと悲劇です。叱責妄信型上司は、そんな部下をも叱責してしまうのです。部下は既に頑張っているにもかかわらず、「何をやっているんだ、もっと頑張れ!」と上司から“叱咤激励”を受けてしまいます。
部下は、上司から叱責されても成す術がありません。それは、泳げない人が水の中でもがいている状態に似ています。水面下でもがいていることが分からない人からすれば、その様子は、ふざけているように見えたり、積極的に泳ごうとしない姿勢が怠けているように見えてしまうのかもしれません。しかし、泳げない人はどうしていいか分からずもがいているのです。「もっと頑張れ」といわれても、同じ動作を繰り返すしかありません。そして、もがいてももがいても前に進むことができず疲弊していきます。
泳げない人が必要としているのは、叱咤激励や叱責ではありません。泳ぎ方の伝授です。
上司の大切な役割の一つに「部下育成」があります。部下育成とは部下ができるようになるまで叱責して追い詰めることではなく、うまくできない原因を正確に捉え、できるようになる方法を考え、教え導くことです。それをせずに「できないのは怠慢」と決め付け、ただ叱責し続けるのはマネジメントでも何でもありません。たとえ「ストロングマネジメント」などと上司にとって都合のいい名称を付けようが、しょせんは“あらがえない力の差”を利用した暴力です。怠慢なのは部下ではなく、上司の方なのです。
「心のダメージの見誤り」「怠慢が原因という思い込み」という2つの過ちを犯している叱責妄信型上司は、部下を“心のエアポケット”へと陥らせてしまいます。そして、最悪の場合は命を奪ってしまいます。
「いやいや、自ら命を絶つくらいなら、会社を辞めればいい」などという指摘がいかに的外れであるかは、以前『パワハラは減らないどころか増えている――加害者の典型的な言い訳と、決定的な「2つの見落とし」とは』という記事で説明した通りです。一度心のエアポケットに陥ってしまうと、冷静な判断力が奪われるのです。
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