転換期迎えた中国の「自粛のダブルイレブン」、それでも販売額は過去最高浦上早苗「中国式ニューエコノミー」(5/5 ページ)

» 2021年11月12日 12時00分 公開
[浦上早苗ITmedia]
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「盛り上がっていない」わけではない

 とはいえ、「ダブルイレブンが盛り上がっていない」わけではなかった。アリババをはじめとするプラットフォーマーは20年から消費者ニーズに合わせてセール期間を調整しており、売り上げはむしろ伸びていることが、アリババの販売額からも裏付けられた。

 日本ではダブルイレブンに関する報道は11月11日、12日に集中しているが、セールは実際は10月下旬から3週間にわたって続いており、中国で最も盛り上がるのは、セールの開始日前後だ。

 消費者視点でいえば、「全体でいくら売れた」「エコと公共のダブルイレブン」よりも、何が安くなるのか、欲しい商品はいくらになるのかといったルールの方が気になるわけで、盛り上がりのピークが最初にやってくるのは当然だろう。

 今年のダブルイレブンで、プラットフォーマーや企業はセールの開始時間を4時間前倒しし、20時にした。これまでは「徹夜のダブルイレブン」といわれ、社会人や学生は眠気と戦いながらの参戦だったし、高齢者はそもそも蚊帳の外だった。

 時間の前倒しもあるいは政権への配慮なのかもしれないが、売り上げへの効果はてき面で、アリババのECサイトで一斉にセールが始まった10月20日、消費者間マーケットプレイスの「タオバオ(淘宝)」はアクセスが殺到しすぎて一時接続できなくなった。

 中国EC2位の京東(JD.com)も11日14時すぎ、ダブルイレブンでの販売額が3114億元(約5兆5500億円)に達し、過去最高を更新したと発表した。

 ダブルイレブンのセールは中国で完全に定着しており、筆者の知人の中国人たちは子どもの紙おむつやトイレットペーパーといった日用品もこの機会にまとめ買いしている。景気の減速が指摘される中、セールで買えるものを買っておこうという空気もある。

 消費者を煽るムード、自分たちの力を誇示するイベントを控え、社会に負の影響をもたらさない健全なセールを協調して中国政府の“承認”を得る。アリババが最終的に販売額を発表したのは、5403億元という数字が「過去最高の販売額で中国の消費の堅調さを示しつつ、以前のように大きく伸びたわけではない」という絶妙なラインだったからかもしれない。

筆者:浦上 早苗

早稲田大学政治経済学部卒。西日本新聞社を経て、中国・大連に国費博士留学および少数民族向けの大学で講師。2016年夏以降東京で、執筆、翻訳、教育などを行う。法政大学MBA兼任講師(コミュニケーション・マネジメント)。帰国して日本語教師と通訳案内士の資格も取得。
最新刊は、「新型コロナ VS 中国14億人」(小学館新書)。twitter:sanadi37

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