ただし、サプライチェーンの混乱は、想定外だった一方で解決の目処もつきやすい。この夏、生産活動が大きく落ち込んだ東南アジア諸国だが、秋に入って状況は大きく改善してきている。「タイ、ベトナムのPMI(購買担当者景気指数)を見ると、生産も復活してきているし遅延も解消してきている。現地の情報を見ると、感染拡大にも適応し始めている。夏場に見られた供給不足は、そこがピークだったのではないか」(吉川氏)
コロナ禍によるタイやベトナムの生産活動は、夏に大きく落ち込んだが回復を始めている
では、1バレル80ドルを超え、7年ぶりの高値となった原油はどうか。実は、原油の需給の推移を見ると、需要も供給もコロナ禍前の値にはまだ戻っていない。つまり、原油に関しては、需要が増えすぎというよりも政治的な要因で高騰したと吉川氏は見る。
では、米国のインフレ構造を分解してみよう。コアCPIのうち、自動車などの財とサービスに分けて見ると、インフレ率が急加速したのは財のほうだ。サービスについてはインフレ率は安定している。「モノの値段が上がっている。そのうち、4分の3くらいが自動車。それにエネルギーが加わっている。それが米国インフレの背景だ」(吉川氏)
米国のコア消費者物価(CPI)を押し上げたのは財、特に自動車価格の高騰だ
つまり、原油価格はともかく、サプライチェーンの混乱が収まれば、自動車の生産は復調しインフレは沈静化する。インフレ期待をみても、1年先は5%程度と高止まりしているが、5年先は3%程度となっており、加速する気配はない。「2022年は、部品供給、半導体供給の問題が徐々に緩和してくる。年後半に入れば、前年比効果がはく落してインフレ率は下がってくる」(吉川氏)
- どうなるインフレ? 流動性相場はまだまだ続く
昨今インフレが話題だ。米国ではインフレ率が急上昇し、国内でも原油高資源高の影響やガソリンや日常食品などで値上げが続いている。コロナ禍からの経済回復がまだ完全ではないなか、インフレが襲うと、不況下で物価上昇が起きる「スタグフレーション」の声さえ聞かれる。
- インフレが来る? 通貨からの逃避続く世界経済
コロナ禍の拡大は続いているが、株式市場は好調を維持している。この背景には何があるのか。「貨幣からの逃避を垣間見た、それが今年のマーケットだった」。そう話すのは、フィデリティ投信のマクロストラテジスト重見吉徳氏だ。
- インフレと金利と株式市場
製造業の急回復で銅などのコモディティ価格が上昇し始め、米国経済が正常化すれば労働力不足となり、インフレが起こりやすくなるのでは、といったことが心配されている。しかし、これらは株価下落をもたらすとは思えない。“経済回復・正常化”→モノの価格・賃金の上昇→インフレ懸念・金利上昇→“経済悪化・株価下落”という因果は、経済回復・正常化→経済悪化・株価下落であり、矛盾しているからだ。
- 石油価格上昇 インフレによるスタグフレーションの心配はない?
昨今、原油価格の高騰などから、景気後退とインフレ(物価上昇)が同時に起こるスタグフレーションを警戒する声が聞かれる。1970年代のオイルショックの際には、景気後退で給料が上がらないにもかかわらず物価が上昇し、生活者にとって極めて厳しい状況となった。
- コロナ後のインフレを考える
エジンバラやロンドン拠点の株式・債券のファンドマネジャーから、これから5年程度の中長期で投資環境を考えるときには「世界的なインフレの可能性」を想定した方が良い、という話題が出された。後になって振り返ってみると転換点になっているかもしれない、ということだ。
- 理由は半導体だけではない 自動車メーカー軒並み減産と大恐慌のリスク
7月から9月にかけて、各社とも工場の操業を停止せざるを得ないほどの減産を強いられた。この問題、本当に理由が中々報道されていないように思う。メディアの多くでは「半導体」が減産の原因だとされてきた。実際のところ、半導体そのものも理由の一部ではあるのだが、あくまでも一部でしかない。生産に大ブレーキをかけたのはもっとごく普通の部品である。
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