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「残業ゼロ」を目指して、固定残業制を導入 いかにして不公平感をなくしたのか事例研究(3/4 ページ)

» 2021年12月16日 07時00分 公開
[企業実務]

 定時になってピタリと帰る社員もいれば、30分〜1時間くらいの残業を行う社員もいた。

 特に管理部門の場合は、働いている「フリ」をして残業代を稼ぐことも不可能ではない。このため、全員が同じような仕事量なのに、ダラダラと働いて30分〜1時間くらい残業したことにする社員もいたという。

 また営業部門も技術的なやりとりが主なので、訪問先との打ち合わせは1日3件程度と訪問件数は多くない。本来なら定時で帰れるはずの業務量だが、30分くらいの残業が続く担当者もいた。しかし、営業の場合、業務内容の実態把握は困難である。

 本来なら定時に帰れるにもかかわらず、30分〜1時間くらいの残業を意図的に「したこと」にして、残業手当をアテにしていたのかもしれない。こうした疑義があっても、タイムカードで管理する残業時間数に対して、同社は残業手当を支給していたのである。

手当額は月額3万円

 ところが、そうした実態に対して社内から「不公平だ」という不満の声が上がった。一部の社員が、仕事をしていないのに手当をもらっている実情を同僚は察していたのだ。

 「働いているフリで残業手当を稼いでいるような人を見ると、まじめに働いている人は納得できないわけです。本来であれば『やってるフリ』の社員には上司が指導すべきなのでしょうが、それが困難だったのは私もよく理解できます。会社を創業する前は、私もサラリーマンでしたから」

 事務職や営業職は、製造部門とは異なり、業務成果をきちんと計量するのがなかなか難しい。そこで、こうした不満解消のため、2000年から管理部門と営業部門に導入したのが固定残業制だった。

 手当額は、それ以前に支給していた残業手当の支給総額を対象となる社員数で按分(あんぶん)し、切りのいい月額3万円とした。

 残業時間数に換算すると個人差はあるが、おおむね20時間程度の手当額に相当する。管理部門も営業部門も同額である。ただし、製造部門は残業時間を明確に定量できるため除外した。

 社員に対しては、社長自らが「会社として残業ゼロを原則としているが、これまでは事務職、営業職で退社時間にバラつきがあり、不公平感を抱く社員もいた。これに対して公平な労働と賃金とするために導入した制度である」と説明した。

 ただし、原則残業ゼロとはいうものの、実際には時間外勤務が必要な場合もある。例えば、取引先の都合で休日に出勤した等のケースでは、固定残業手当とは別に休日出勤手当もしくは振替休日を与えている。

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