攻める総務

外資系では「プロ扱い」なのに、日本では「何でも屋」 攻めの総務に求められる心構え総務のための「オフィス」再考(2/2 ページ)

» 2021年12月17日 07時00分 公開
[金英範ITmedia]
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ジョブ型化で「皆で我慢」は通用しなくなる

 日本では、そうしたハンディキャップを背負わされた本社の社員に、今度はジョブ型の人事制度という枠組みだけ、グローバルで統一するお達しが入り、「成果を出す必要あり」という非常に不利な戦いを強いられています。

 筆者は日本舞踊を10年ほど趣味でやっていますが、舞踊で「役者」にとって大事なのは「舞台」。これをオフィスに例えると、社員は「役者」(成果を最終的に出す役割)であり、その役者が演技に専念できる最高の舞台とサービスを裏方で考え、展開するのが総務の役割だと思います。舞台の空調が効かず、弁当はおいしくないし、衣装もヨレヨレでは、良い演技(パフォーマンス)ができないのは明らかです。

 ジョブ型化の流れが加速すればするほど、社員はその成果を出すために「舞台」への要望を高め、要求も厳しくなります。今までみたいに「皆で我慢」というカルチャーは通用しません。そうした雰囲気が残る現場では、当然ながら市場競争不利となり、優秀な人材も消え、倒産へのカウントダウンが始まることになるでしょう。

 日本企業が30年前と比べて、国際競争力を徐々に落としているというデータもありますが、こうしたオフィスの生産性の低さも一因として挙げられるのではないでしょうか。ここにもお金を使うべきと分かっていながらも、そこはコスト削減──と決めつけるなどしてきました。そうした過去を猛省し、これからは戦略的に進める必要があります。

 生産現場などエッセンシャルワーカーの質と生産性は、世界屈指の実力を誇るといわれる日本企業。生産性向上に向け、ある程度やり尽くした感のある生産現場に過度な本社経費を載せないためにも、戦略的に改革していくべきは「オフィス」(ホワイトワーカー)の生産性に他なりません。

「総務DX」が加速するのは当たり前

 このようなジョブ型化はバックオフィスにも及び、個々の専門性がはっきりしてくるという流れは一般的になりつつあります。最後の砦の総務がこの流れに乗ってくると、最初に起きるのが業務プロセスの見える化、そしてデジタイゼーション、デジタライゼーション、DXへとつながっていきます。総務のDXの最大の目的は「社員の幸福(ハピネス)創出」です。

 業務効率化や生産性向上などは、社員のハピネスの産物に他なりません。目的=社員のハピネス、結果=生産性向上。この順番が大事です。総務は社員を幸せにするチャンスを与えられていて、これが総務のジョブとなります。快適に働ける場を用意し、福利厚生から在宅勤務を充実させる演出まで可能です。

photo 写真はイメージです(提供:ゲッティイメージズ)

 一つのバロメーターとして、会社のエレベーターに乗っている全員が自分(総務)の顧客と思えるかどうか、幸福度が気なるかどうか、という指標があります。彼らが幸せに働けているかどうかを気にする「姿勢」「心」「行動」が芽生えてきたら、それらを実現する手段としてデジタイゼーション、デジタライゼーション、DXは自然に推進されます。

 そうなると、DXは総務の敵ではなく味方に大変身するでしょう。この流れの中で多くの日本企業がジレンマ状態から抜け出し、生産性を20%ほど高められると筆者は信じています。

 総務のジョブ化、業務プロセス変革、DXは複雑なので、どうしても後回しになりがちですが、社員の幸福度、企業の競争力を底上げするためには一番重要であり、最初に着手すべき課題なのです。総務の攻めの姿勢、そして「何でも屋」から「戦略的な総務」に変わる行動が求められます。

著者紹介:金英範

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 株式会社 Hite & Co.代表取締役社長。「総務から社員を元気に、会社を元気に!」がモットー。25年以上に渡り、日系・外資系大企業の計7社にて総務・ファシリティマネジメントを実務経験してきた“総務プロ”。

 インハウス業務とサービスプロバイダーの両方の立場から、企業の不動産戦略や社員働き方変化に伴うオフィス変革&再構築を主軸に、独自のイノベーティブな手法でファシリティコストの大幅な削減と同時に社員サービスの向上など、スタートアップから大企業まで幅広く実践してきた。

 JFMAやコアネットなどの業界団体でのリーダーシップ、企業総務部への戦略コンサルティングの実績も持つ。Master of Corporate Real Estate(MCR)認定ファシリティマネジャー、一級建築士の資格を保有。


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