子会社のセクハラ問題、親会社に“責任”はある? 裁判所の判断は弁護士・佐藤みのり「レッドカードなハラスメント」(1/2 ページ)

» 2021年12月21日 13時00分 公開
[佐藤みのりITmedia]

連載:弁護士・佐藤みのり「レッドカードなハラスメント」

ハラスメント問題やコンプライアンス問題に詳しい弁護士・佐藤みのり先生が、ハラスメントの違法性や企業が取るべき対応について解説します。ハラスメントを「したくない上司」「させたくない人事」必読の連載です。

 2020年6月、公益通報者保護法が改正され、従業員数301人以上の企業は内部通報制度を整備を義務付けられました(22年6月までに施行予定)。各社、内部通報窓口を準備していることでしょうが、もしこうした内部通報制度に不備があると、訴訟問題にまで発展しかねません。

 今回は、グループ会社における内部通報制度の在り方が問題になった事例をご紹介します。

 グループ会社の場合、内部通報制度を親会社が運用しており、その窓口に子会社の従業員から相談があることもあるでしょう。子会社内で起こったハラスメントについて、親会社の内部通報窓口に相談があった場合、親会社はどこまで調査しなければいけないのでしょうか。また、親会社が法的責任を問われることはあるのでしょうか。

子会社内のセクハラ問題 相談窓口のある親会社の責任は?

 こうした疑問について考える上で参考になるのが、次の判例です(最高裁18年2月15日判決)。

 I社(親会社)の子会社に勤務していたA女とB男は交際していましたが、後にB男がA女につきまとうようになりました(セクハラ1)。A女は同僚Cに相談すると共に、子会社の上司に相談しましたが、上司は事実確認を行わず、B男の行為を予防する措置を講じませんでした。

 A女は子会社を退職しましたが、その後もB男からのつきまといが続きました(セクハラ2)。そこで、CがI社の内部通報窓口に、B男のA女に対するセクハラ2について相談し、A女とB男に事実確認するよう求めました。

 I社は子会社に依頼して、B男や関係者に対する聴き取り調査を行わせ、すでに退職しているA女については聴取しないまま、「事実は確認できなかった」とCに回答しました。

 A女は、セクハラによって精神的苦痛を受けたとして、B男、子会社、I社(親会社)を相手に訴訟を起こしました。

裁判所の判断は?

photo 画像はイメージです(提供:ゲッティイメージズ)

 本件について裁判所は、セクハラ被害を認め、B男と子会社に対する請求を認容しましたが、最高裁はI社の責任を否定しました。

 I社がA女を直接指揮監督する関係にないことや、I社のコンプライアンス体制の内容からすると、子会社の負っている、相談者の相談に応じ適切に対応する義務を、親会社のI社が履行する立場にあったとはいえないと判断したのです。

 裁判所は、相談窓口になされた申出の具体的状況によっては、親会社が内部通報制度の内容や相談内容などに応じて、適切に対応すべき義務を負う場合があるとしています。その上で、本件はA女本人が窓口へ相談に行ったわけではないという事情も考慮して、I社の責任を否定しました。

 最高裁の判断は、事情が異なれば、親会社の責任が認められることがあることを示しています。例えば、本件で、A女が子会社を退職する前、まさにB男からセクハラ被害を受けている最中に、I社の内部通報窓口に通報していたとしたら、I社の義務違反が生じていた可能性もあるでしょう。

 では、親会社はこうした責任を負わないため、どうしたらいいのでしょうか。そもそも子会社従業員からの相談は受け付けない制度にしておけば安心なのでしょうか。

 グループ会社においては、グループ全体で不正や違法行為を早期に発見する必要があるため、親会社が子会社従業員を含め、グループ全体を対象とする相談窓口を設ける方が望ましいといえます。そして、相談窓口を設ける以上、事案によっては、親会社自身がしっかりと調査、検討、判断する必要があります。子会社に任せきりになっていないか確認しながら、事案に応じて柔軟に対応しましょう。

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