子会社のセクハラ問題、親会社に“責任”はある? 裁判所の判断は弁護士・佐藤みのり「レッドカードなハラスメント」(2/2 ページ)

» 2021年12月21日 13時00分 公開
[佐藤みのりITmedia]
前のページへ 1|2       

内部通報に担当者が取るべき対応

 本稿の前編「内部通報に『パワハラではない』と誤判断──法改正で義務化された内部通報制度、運用のポイントとは」では、内部通報窓口にハラスメントの相談をした従業員が、内部通報担当部署の出した結論に納得できず、内部通報担当部署の室長個人を訴えたケースをご紹介しました。

 ハラスメントの被害を訴える相談者は、内部通報担当部署がハラスメントの存在を認めなかったり、加害者として名指しした者に対して厳しい処分を下さなかったりすると、大きな不満を抱く可能性があります。企業側が、適切な調査を行い、内部基準にのっとり結論を出し、きちんと調査結果を報告したとしても、相談者の不満や怒りが収まらず、その矛先が担当者個人に向かうこともあります。

 こうした事態をできる限り回避するためには、相談者が特定個人に対して不満を抱かないよう、内部通報担当部署の人事を工夫する必要があります。具体的には、「窓口などで相談者対応をする人」と「調査に当たる人」を分け、調査結果の分析や検討、判断は、内部通報担当部署が組織として行うことを強調することが重要です。

 そもそも、内部通報制度は、企業が組織全体で運用しているものであり、担当者個人のさじ加減で調査や判断結果が変わるものではありません。よって、相談者に対して、そのような誤解を生じさせることもあってはなりません。相談者は、調査過程や判断の理由など、窓口担当者に対して、さまざまな質問をしてくることがありますが、窓口担当者は組織としての回答であることをはっきりと示す必要があります。その場で回答することが困難な質問については、必ずいったん持ち帰るようにしましょう。

 なお、相談者の矛先が内部通報担当者個人に向かわないようにするため、窓口業務を外部に委託するといった方法も考えられます。内部通報制度については、経営陣から独立した窓口の設置が必要です。社内の総務部門や法務部門などに内部通報窓口を設けている企業が多いですが、独立性確保の観点からも、外部の法律事務所などを活用することを検討しても良いでしょう。

著者プロフィール

佐藤みのり 弁護士

photo

慶應義塾大学法学部政治学科卒業(首席)、同大学院法務研究科修了後、2012年司法試験に合格。複数法律事務所で実務経験を積んだ後、2015年佐藤みのり法律事務所を開設。ハラスメント問題、コンプライアンス問題、子どもの人権問題などに積極的に取り組み、弁護士として活動する傍ら、大学や大学院で教鞭をとり(慶應義塾大学大学院法務研究科助教、デジタルハリウッド大学非常勤講師)、ニュース番組の取材協力や法律コラム・本の執筆など、幅広く活動。ハラスメントや内部通報制度など、企業向け講演会、研修会の講師も務める。


前のページへ 1|2       

Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.