インターネットで「男性育休 お得」と検索すると、「男性が育休を取得すると○○万円手取りが増える」「男性育休の節税方法」「育休取得はボーナス月にとるべし」などさまざまな指南がヒットします。
これは(1)育児休業期間中の社会保険料の免除が月末の日だけで判定されていること、(2)育児休業期間中の給料の減額が日割りで行われること、(3)1日の育児休業でも育児休業給付金の対象となること、をうまく活用して、手取り額を増やす方法を指南しています。
具体例で説明します。ある男性社員は、6月25日に給料36万円、6月30日に賞与60万円が支給される予定です。この社員が、6月30日に「年次有給休暇」を取得した場合と、「育児休業」を取得した場合で比較します。
比較内容が分かりやすくなるように社会保険料以外(所得税や雇用保険料など)の部分は除外して行います。
6月の給与では、給料は36万円、健康保険料が1万7712円(※1)、厚生年金保険料は3万2940円となるので手取り額は30万9348円です。
(※1)保険料は協会けんぽ東京支部の令和3年4月の保険料率から算出
6月の賞与では、賞与が60万円、健康保険料が2万9400円、厚生年金保険料は5万4900円となり手取り額は51万5700円となります。
(1)の場合、6月分の手取り額は、あわせて82万5048円となります。
一般的に育児休業を取得した日は無給となります。この場合、6月の給料は日割り支給されます。
36万円×29/30=34万8000円 ということで6月の給与は34万8000円、健康保険料と厚生年金保険料は両方とも免除となります。6月の手取り額は、34万8000円となります。
6月の賞与では、賞与が60万円、健康保険料と厚生年金保険料は両方とも免除となります。6月賞与の手取り額は、60万円となります。
さらに、6月は育児休業で無給の日があるので、申請を行えば雇用保険から育児休業給付金も支給されます。
金額は育児休業取得前、6カ月間の給与の平均額の67%となります。詳細な計算は省きますが、この半年間の給料が同じだとすると1万2000円の67%ということで8040円ほど支給されます。
なお、この給付金は非課税のため全額手に入れることができます。(2)の場合、6月分の手取り額は、あわせて95万6040円となります。
(1)と(2)の手取り額を比較すると95万6040−82万5048=13万992円、(2)の方が多くなります。
このように、たった1日、月末に育児休業を取得するだけで手取り額を約13万円増やすことができます。「男性育休は月末がお得」と指南されている方法はこのようなものです。
社員にとっては、配偶者の出産に対応するために休暇を取得できるなら、単に有給休暇でも育児休業でも違いはありません。「申請するだけで手取り額が13万円も増えるなら使わない手はない」と判断して活用しているものと考えられます。
このような一時的な手取り額を増額するための育児休業は、法の本来の目的である「子の養育又は家族の介護を行う労働者等の雇用の継続及び再就職の促進を図り、もってこれらの者の職業生活と家庭生活との両立に寄与することを通じて、これらの者の福祉の増進を図り、あわせて経済及び社会の発展に資することを目的とする」というものからは外れていると考えられます。
加えて、会社の給与担当者にとっては、1日の育児休業のために多くの手続きが必要となります。その手間は1年間育児休業を取得する場合とそれほど変わりません。
これらのことから、育児休業の取得期間に最低期間を設けたいという気持ちは理解できます。しかしながら、現在の法令では、それを制限することはできません。
Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.
Special
PR注目記事ランキング