“男のくせに育休なんて”──育児参加する男性への「パタハラ」 2022年4月の改正育児・介護休業法との関係は?弁護士・佐藤みのり「レッドカードなハラスメント」

» 2022年03月14日 15時00分 公開
[佐藤みのりITmedia]

連載:弁護士・佐藤みのり「レッドカードなハラスメント」

ハラスメント問題やコンプライアンス問題に詳しい弁護士・佐藤みのり先生が、ハラスメントの違法性や企業が取るべき対応について解説します。ハラスメントを「したくない上司」「させたくない人事」必読の連載です。

「パタニティ・ハラスメント(パタハラ)」とは

 「パタニティ・ハラスメント」、略して「パタハラ」をご存じでしょうか。パタハラとは、育児参加しようとする男性への嫌がらせのことです。主に、男性従業員が育児休業を取得したいと申し出たり、実際に取得したりした際に、上司や同僚からなされる嫌がらせのことをいいます。

photo 画像はイメージです(提供:ゲッティイメージズ)

パタハラの事例 どんな行為が該当するのか?

  • 上司に育児休業について相談したら「男のくせに、『育休』なんて言っていると、社内の居場所がなくなるぞ、取るな」と言われた
  • 上司から「1〜2カ月の育休取得なら問題ない」と言われ取得したところ、以前からあった昇格の話がなくなった
  • 育休取得後、不利益な査定がなされ、ボーナスが下がった

 厚生労働省の「令和2年度職場のハラスメントに関する実態調査報告書(男性の育児休業等ハラスメント)」によれば、こうしたパタハラを過去5年間に経験した人は、回答者の26.2%おり、約4人に1人がパタハラ被害者であるという結果に。この状況を放置しておけば、男性の育児参加が進まず、女性ばかりに育児の負担がのしかかり、女性の社会進出の妨げにもなってしまうでしょう。

パタハラとマタハラの関係 どちらも背景には性別役割分業観が

 女性の場合、出産後には必ず就業できない期間があります(出産の翌日から8週間は就業できない。産後6週間を過ぎた後、本人が請求し、医師が認めた場合は就業可能/労働基準法65条2項)。出産前も本人からの請求があれば、予定日の6週間前(双子以上の場合は14週間前)から休業できます(同法65条1項)。このように妊娠や出産を機に、一定期間職場から必ず離れることになる女性に対して、職場で不利益な扱いがなされたり、就業環境が害されたりすることがあります。いわゆる「マタニティ・ハラスメント(マタハラ)」です。

 パタハラとマタハラは無関係ではなく、どちらも背景には、根強い性別役割分業観があるといえるでしょう。「男性は外で働き、女性は家庭で家事や育児を担うこと」を当然とする性別役割分業の考え方によって、育児に参加したい男性への妨害が生まれ、職業人として活躍したい女性を家庭でも職場でも孤立させる結果を招いているのです。

 しかし、現代社会は個人の意思を尊重する方向に変わりつつあります。性別にかかわらず、働き方や生き方を自由に決められることが大切だと認識されるようになり、そのことが産業界、ひいては社会全体の発展にとっても重要なのだと考えられるようになりました。

パタハラを巡る法改正 2022年4月にも改正育児・介護休業法が施行

 こうした認識に基づき、パタハラやマタハラを巡る法律も変化してきています。「育児・介護休業法」は、事業主に対し、育休の申し出や育休取得を理由とした不利益な取り扱いを禁じています。この法律は2016年、新たに、事業主に対し「パタハラやマタハラの防止措置を講じる」ことを義務付けました(同法25条)。なお、マタハラについては「男女雇用機会均等法」でも防止義務について定められています(同法11条)。

詳しい改正内容はこちら

 「育児・介護休業法」はその後も改正を重ね、21年6月の改正では、男性の育児休業取得推進のための制度が作られました。具体的には、子の出生直後の時期(出生後8週間以内―原則、女性が就業できない期間)に、柔軟に育児休業を取得できるような枠組みが新しく作られました。これを「出生時育休(産後パパ育休)」と呼びます。「出生時育休」は、休業の2週間前までに申し出れば取得でき、休業の期間は4週間までで、2回に分割して取得することも可能です。また、休業中の就業も、一定の条件を満たせば柔軟にできることになりました。

 「出生時育休」とは別に、子どもが原則1歳になるまでの間に取得できる従来の「育休」についても、21年の改正により、2回まで分割しての取得が可能になりました。保育所に入所できないなどの理由により、育休を取得する期間を1歳以降に延長する場合についても、柔軟に夫婦で交代しながら取得できる制度になっています。

 この他、従業員が自分や配偶者の妊娠や出産について申し出たら、会社の方から「こういう育休の制度があるけれど、取りますか」などと確認することが義務付けられます。また、従業員1000人超の企業を対象に、男性の育児休業の取得率など、育休の取得状況について公表が義務付けられます。

 こうした21年6月改正の「育児・介護休業法」の内容は、22年4月1日より、徐々に施行されます。

法改正でパタハラの減少が期待される

 法律が変わり、男性が育休を取得しやすくなっていくと、男性の育休取得が当たり前になり、自然とパタハラも減っていくのではないかと思います。会社は、法改正の動きに敏感に反応し、法施行前であっても、積極的に新制度を取り入れていく姿勢が大切になるでしょう。

 また、経営者の姿勢が、従業員の姿勢に影響を与えることも多いです。経営者自ら、男性も育休取得や育児参加が望ましいことであるというメッセージを発信したり、実際に育休を取得した男性従業員の声を紹介したりすることで、性別役割分業観が染みついた世代の従業員の意識を変えていくことも必要でしょう。

 育児休業の取得が進むことにより、職場に残った従業員の業務負担が増すことも考えられます。普段から人手不足に悩み、過重労働を強いているような職場では、各従業員の妊娠・出産に対応しにくいので、日ごろから、ワークライフバランスを実現できる職場づくりに努めましょう。

 3月15日掲載の後編では、パタハラが訴訟に発展してしまった事例をご紹介します。

後編はこちら

著者プロフィール

佐藤みのり 弁護士

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慶應義塾大学法学部政治学科卒業(首席)、同大学院法務研究科修了後、2012年司法試験に合格。複数法律事務所で実務経験を積んだ後、2015年佐藤みのり法律事務所を開設。ハラスメント問題、コンプライアンス問題、子どもの人権問題などに積極的に取り組み、弁護士として活動する傍ら、大学や大学院で教鞭をとり(慶應義塾大学大学院法務研究科助教、デジタルハリウッド大学非常勤講師)、ニュース番組の取材協力や法律コラム・本の執筆など、幅広く活動。ハラスメントや内部通報制度など、企業向け講演会、研修会の講師も務める。


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