世界初! 道路も線路も走る「DMV」が登場して、何が変わろうとしているのか杉山淳一の「週刊鉄道経済」(3/8 ページ)

» 2022年01月07日 08時00分 公開
[杉山淳一ITmedia]

徳島県が導入を検討

 こうした状況の中で、DMVを真剣に検討した自治体があった。徳島県だ。徳島県は南東部で第三セクター「阿佐海岸鉄道」を維持している。もともと国鉄阿佐線として、室戸経由で「阿波」「土佐」を結ぶ計画だった。しかし国鉄の赤字を背景に建設は中止。ほぼ完成状態だった路線の一部を引き取り、徳島県と高知県などが出資して開業した。

阿佐海岸鉄道の路線図。点線入りが鉄道区間

 しかし中途半端な距離だし、駅はすべて高架で、宍喰駅にエレベーターがあるほかは階段だけで不便だ。したがって地元の利用者はほとんどいない。当然ながら赤字だった。せめて赤字を軽減したい。これがDMV導入の理由のひとつ。赤字で利用者がいなければバス転換でもいいはずだけど、実は防災面で重要の施設だ。これが阿佐海岸鉄道を維持する理由だ。

 徳島県海陽町の主要交通路は国道55号線と阿佐海岸鉄道だけ。国道55号は海岸沿いだから、南海トラフ地震で津波に襲われると地域は孤立してしまう。徳島県としては、防災の観点から阿佐海岸鉄道を維持したかった。高知県東洋町の線路は短いけれど、徳島県方面の出入り口として重要だ。

 そこで、阿佐海岸鉄道を大改造してDMVを導入すると決めた。道路と線路の接続点を作るため、徳島県側はJR四国から牟岐線の阿波海南駅〜海部駅間を譲受して地上駅を得た。甲浦駅は高架線からループ状の勾配道路を新設した。

 もちろん、世界初のDMVとして観光活性化にも期待している。というより、いつやってくるか分からない地震の備えだからといって、赤字を垂れ流して走っても良いはずがない。つまりDMVは「阿佐海岸鉄道を維持する」「経費を削減する」「観光の柱とする」という3つの理由で導入された。

 ここまでの経緯は、筆者が当サイトで4回にわたって書いた。

バスモードで到着したDMV
車輪を出して列車モードへ

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