世界初! 道路も線路も走る「DMV」が登場して、何が変わろうとしているのか:杉山淳一の「週刊鉄道経済」(2/8 ページ)
バスを線路に乗せて走らせようという構想は古くからあった。ドイツでは1950年代に鉄道と道路を直通するバス「シトラス・バス」が実用化されていた。日本でも60年代に国鉄が「アンヒビアン・バス」と名づけて導入を検討し、試作車まで作っていた。
アンヒビアンは英語で「両生類」だ。鉄道と道路の両生という意味だった。しかし、両生類というなら、現在では東京・横浜・山中湖などで実用化された水陸両用バスのほうが両生類の意味に近い。
それはともかく、「シトラス・バス」も「アンヒビアン・バス」も、構造としてはバスの車体をジャッキアップして鉄道用台車を後付けする方式だ。1台で完結していない。しかも鉄道台車の脱着に手間がかかった。ドイツでは13年間も運用されたけれども廃止。国鉄は実用化に至らなかった。
現在のDMVの原型は06年にJR北海道が試作した「サラマンダー901」だ。JR北海道で当時の副社長だった柿沼博彦氏が、閑散区間のコスト削減策として「マイクロバスを線路に乗せよう」と考えた。すでに保線用の軌陸車は存在したから、その技術を取り込んで、1台で鉄道モードと道路モードを直通できる車両として開発した。これが「DMV(デュアル・モード・ビークル)」の由来となった。
JR北海道のDMVが試験的な営業運行を始めると、全国の赤字ローカル線を抱える自治体からも注目された。実際に貸し出して試験運行も行った。しかし、どれも実用化には至らず、実験に終わってしまった。真剣に導入したローカル鉄道は廃止され、実験のみにとどめてDMVを却下したローカル鉄道は、別の経営改善に取り組んで今日に至る。つまりDMVは赤字ローカル線の起死回生策にはならなかった。
やがてJR北海道も経営難となり、15年にDMVも含めた新規技術開発が中止された。しかし、ローカル線にとって採用の選択肢になる。実用化直前の技術を廃れさせたくない。国土交通省がDMVの研究成果を引き取り、技術検討会を継続した。
- 次の「新幹線」はどこか 計画をまとめると“本命”が見えてきた?
西九州新幹線開業、北陸新幹線敦賀延伸の開業時期が近づいている。そこで今回は、新幹線基本計画路線の現在の動きをまとめてみた。新幹線の構想は各県にあるが、計画は「建設を開始すべき新幹線鉄道の路線を定める基本計画」として告示されている。これと費用便益比、各地のロビー活動の現状などから、今後を占ってみたい。
- 新幹線だけじゃない! JR東海の「在来線」はどうなってるのか
JR東海といえば「東海道新幹線を運行する会社」「リニア中央新幹線を建設する会社」というイメージが強い。報道も新幹線絡みが多い。しかしほかのJR旅客会社と同様に在来線も運行している。そして「新幹線ばかり優遇して、在来線の取り組みは弱い」という声もある。本当だろうか。
- 世界初の乗りもの「DMV」 四国の小さな町は“新しい波”に乗れるか
徳島県が2020年度、世界初のDMV(デュアル・モード・ビークル)による定期営業運行を始める。その舞台は阿佐海岸鉄道だ。沿線にはサーフィンで有名な海岸などもあり、観光の魅力もある。DMVが新たな観光資源になることを期待したい。
- 徳島県のDMV導入は「おもしろい」で突っ走れ!!
JR北海道が開発し実用化できず、あまたのローカル鉄道が手を伸ばして撤退したDMV(デュアル・モード・ビークル)を、徳島県が実用化する。しかし現地に行ってみると「3年後に実現したい」という割には盛り上がっていない。
- 「DMV」計画実現へ、徳島県はホンキだ
JR北海道が開発し、トヨタ自動車までを巻き込んだ「DMV(デュアル・モード・ビークル)」が徳島県で実用化されそうだ。わずか8.5キロメートルの第三セクター鉄道を大改造する起死回生策。目指すは約38キロメートル離れた室戸岬だ。
- ローカル線の救世主になるのか――道路と線路を走るDMVの課題と未来
山形県のローカル線を活性化するため、DMV(デュアル・モード・ビークル)を導入する動きが始まった。しかし、開発元のJR北海道もいまだ実用化せず、今まで取り組んできた路線や自治体にも、その後の動きはない。そこで国土交通省が主導して取りまとめることになった。
Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.