2022年度の税制改正大綱が昨年12月10日に公表された。その中で注目を浴びているのが「賃上げ税制」だ。従業員の賃金を一定以上増加させた場合、税額控除の上乗せ措置を受けられる。その基準の一つが「3%以上」の賃金の増加である。
これを見て、従業員の賃金を3%アップさせれば適用されると考える方も少なくないが、そうとは限らない。
賃金制度の運用には定期昇給とベースアップという2つの仕組みがあり、さらに退職者による人件費再循環サイクルという機能が複雑に絡んでいるからだ。
本記事では、賃上げ税制で求められる対応を、賃金制度の運用ルールを見ながら解説。その上で、賃上げ税制の目的を考察する。
今回の税制改正では、企業の賃上げを促すために、賃上げの程度に応じて法人税の控除率を引き上げる。
具体的には、大企業や中堅企業では継続して働く従業員の給与やボーナスなどの総額が前年よりも3%以上増えた場合、従業員全体の給与の増額分の15%を法人税から差し引く。4%以上増額していれば控除率を25%まで拡大する。
中小企業では、従業員全体を対象に行い、給与やボーナスの総額が前年度よりも1.5%以上増額となった場合、増額の15%を法人税から差し引く。また2.5%以上増えていれば、30%まで控除率は拡大する。この他に、教育訓練費に関する控除もある。
月齢給与には定期昇給があり、毎年アップしている。またボーナスも変動はあるものの長期的にみればアップしている。従って、会社全体の総人件費は毎年上昇しているように思われるが、実際はその水準がほぼ維持されている例が多い。
中には、売上高が横ばい又は減収なのに、毎年の従業員の昇給を行っている企業が多数ある。その理由は何か。
それは図1に示したように、人件費再循環サイクルが機能しているからだ。総人件費に影響を及ぼすのは、新入社員、在籍社員、そして退職者の賃金である。定年退職者の賃金水準は高い傾向にあるので、退職するとその賃金で新入社員の数人分と在籍社員の昇給原資をカバーできる。
つまり経営者は、現状の総人件費枠の中で退職者の人件費を在籍社員の昇給原資や新入社員の給与などに振り分けているのだ。その結果、総人件費を上げることなく、賃上げが可能となる。これを人件費の再循環サイクルという。
この機能が働いている限り、在籍している従業員の賃上げを3%以上行っても、昨年に比べて人件費総額は変わらないので、賃上げ税制の3%以上のアップには該当しないことになる。
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