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日立、富士通、NTT……名門企業がこぞって乗り出す「ジョブ型」、成功と失敗の分かれ目は?働き方の「今」を知る(3/3 ページ)

» 2022年01月21日 07時15分 公開
[新田龍ITmedia]
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 成果を測るにはJDによる職務内容と成果の定義がなされていることが大前提となるが、当時の日本企業には個別の職務定義などなく、成果は上司と相談の上で決まる、という至極恣意的なものであった。結果的に自己申告によって達成可能な低い目標設定が乱発されたり、人件費抑制というゴールありきの意図的な成果評価が行われたりしたために、組織全体で士気低下につながってしまったのだ。しかし今般のジョブ型ブームにおいては、各社ともJDの作り込みと職務明確化を伴っている。全ての職種についてJDをそろえ、報酬や評価制度も抜本的に見直すには手間もエネルギーも要するが、これからの時代に即した働き方と人材流動化を実現するためにも、ぜひ各社には努力してほしいところである。

労働法制の改革も急務

 企業各社が尽力する一方で、もう一つ乗り越えなければならないものがある。それが、法制度だ。

 ジョブ型の大きなメリットは「適所適材」であり、ポジションで求められるスキルや経験に満たない人や、継続的なスキルアップの努力を怠る人は解雇になるという機動力の高さが生産性向上につながる。しかしわが国では制度導入以前の問題として「現行の労働契約法」と「長年積み重なった判例」という大前提が存在し、たとえ能力不足の人材であっても、それだけを理由に解雇できないのだ。また労働基準法含め各種法制も、労務管理は職務の成果ではなくあくまで「労働時間」の管理を前提としている。これは大きな齟齬であろう。

 とはいえ法律まで見直すとなると、ジョブ型雇用の実現がいつになるか見当もつかなくなる。現行法の枠組みを維持しつつ、実質的なジョブ型雇用を実現するためには、世の中全体で「もう横一線、平等な処遇は無理なので、これからは格差のある働き方にするしかない」と受け入れなくてはならないだろう。

 すなわち、採用段階から明確に「成果追求型幹部候補職」と「ワークライフバランス重視型無期雇用職」といった形に分け、前者は個別に裁量労働で契約を結んで働いてもらい、業績連動で高い報酬を得られるようにし、とにかく成果を追求。後者は勤務地も労働時間も報酬水準も厳格に枠を設け、残業皆無で休みも取得できるが、給料は上がらないし、マネジメントやクリエイティブな仕事は一切振られない、といった形だ。

 現状の仕組みのままだと、意欲もあって成果も出せるような人材に対してなかなか報いることができず、逆にマイペースでやりたい人にとっては組織からの要求が過大で、いずれにせよ不満を抱かせることになってしまっている。「格差を設ける」という響きだと嫌悪感を抱く人もいるかもしれないが、「各自の価値観に合った、多様な『働きやすさ』を実現する」という意図であれば納得されやすいはずだ。

 ジョブ型という言葉だけにとらわれず、適所適材が実現し、世界で勝負できる優秀人材を適切に処遇できるような体制を労使ともに協調しつつ創り上げていけることを願ってやまない。

著者プロフィール・新田龍(にったりょう)

働き方改革総合研究所株式会社 代表取締役/ブラック企業アナリスト。

早稲田大学卒業後、複数の上場企業で事業企画、営業管理職、コンサルタント、人事採用担当職などを歴任。2007年、働き方改革総合研究所株式会社設立。労働環境改善による企業価値向上のコンサルティングと、ブラック企業/ブラック社員関連のトラブル解決、レピュテーション改善支援を手掛ける。またTV、新聞など各種メディアでもコメント。厚生労働省ハラスメント対策企画委員も務める。著書に「ワタミの失敗〜『善意の会社』がブラック企業と呼ばれた構造」(KADOKAWA)、「問題社員の正しい辞めさせ方」(リチェンジ)他多数。


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