例えば、メンバーが「明示された職務内容以外は担当しなくともよい」という意識になりやすく、ゼネラリスト育成を前提とする旧来のマネジメント手法との相性が悪い。また、JDの範囲を超えた業務を依頼しにくく、臨機応変な担当業務変更や異動などに対応しにくいだけでなく、異動や昇進などで担当業務範囲が拡大する場合、それに合わせたJDの変更と、業務範囲が広がった分の昇給もセットにすべき場合もあるので制度設計の煩雑性が増す。
メンバー同士がお互いにサポートし合って仕事し、業務や部門の垣根を超えて改善していくような日本的チームワークが根付いている職場においては、JDを基にしたマネジメントは齟齬(そご)を来す可能性がある。またJDだけのせいではないものの、「その人しか対応できない専門的な業務」があちこちで生まれてしまうと、その人が異動したり退職したりした場合、適切な後任者が見つからなければ全体の業務に支障が及ぶリスクが生じる点も認識しておきたい。
一方で、JDを詳細に定義して全社で運用することができれば、次のようなメリットが得られるだろう。
まず、求められることや責任範囲が明確となり、組織―従業員間における「こんなはずではなかった」といったミスマッチ、ミスコミュニケーションを防止できる。また、何をすれば評価されるか分かりやすくなるため、努力すべき方向性が明確になり、従業員と組織のパフォーマンス向上につながる。
加えて、ポジションに対するコスト(人件費)とリターン(期待業績)が明確になり、採用計画や事業計画の見通しが立てやすくなるし、ポジションにおける役割や資質が明文化されているため、不採用時やマイナス評価時であっても差別や不当な扱いをしたわけではないことの証明となり、訴訟リスクを防げるメリットもある。
「職務の役割と期待業績が明確になり、評価しやすくなる」と聞くと、ある年齢以上の読者は、1990年代に流行した「成果主義」を想起するかもしれない。しかし当時の成果主義は、日本企業に根付かなかった。それは、ジョブ型における「職務を明確に規定した上での成果給」とは異なり、メンバーシップ型をベースにした名ばかりのものであったからだ。
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