全員に恩恵のある「駅のバリアフリー」、都市と地方でこんなに違う杉山淳一の「週刊鉄道経済」(5/6 ページ)

» 2022年01月21日 14時46分 公開
[杉山淳一ITmedia]
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地方ローカル線はアテンダントで解決したらどうか

 地方鉄道のバリアフリー化については加算運賃では到底解決できない。そもそも通常運賃で乗る客が少ないから、加算したところで雀の涙。むしろ運賃上昇を嫌って鉄道離れが起きてしまう。

 設備負担とは別の深刻な問題がある。「駅の無人化」だ。経営効率化のために無人駅が増えている。JR九州は22年3月12日から29の駅を無人化する。これに対し、大分県の障害者などが参加する16のグループが反対し、1月12日にJR九州に対して住民説明会の開催を求めた。

 開催すれば当然、見直しを求められるだろうから、JR九州は明確な回答を避けた。西日本鉄道も無人駅を拡大する方針だ。1月13日、福岡県小郡市で住民グループが市長に対して、駅員配置継続を働きかけるよう要望書を手渡した。

 鉄道事業者、住民側、どちらの事情も分かるだけに裁定が難しい。鉄道事業者はとにかくおカネがない。もともと乗客が少ないローカル線が、コロナの影響もあってさらに苦しくなっている。路線を存続させるためには少しでもコストを下げたい。駅を無人化し、列車はワンマン運転としたい。

 利用者としては駅を使いやすくしてほしい。現金できっぷを買いたいし、プラットホームなどの安全に気を配ってほしい。車椅子や白杖の利用者は乗降を手伝ってもらいたい。JR九州は路線に巡回担当者を配置して、乗降介助は予約を受け付けるという。

 しかし、介助される側としては、ほかの客と同じように事前の手続きなしに列車に乗りたい。これは理想ではく、公共交通利用者の権利だ。交通政策基本法の理念でもある。

 国土交通省の発表は「バリアフリー設備費用の補助率を最大3分の1から2分の1に増やす」だった。これでハード面の改革はできる。道路と駅舎やプラットホームまでの段差は、スロープ設置で解決できる。

 エレベーターを設置すれば、駅舎から離れたプラットホームへ跨線橋を伝っていける。エレベーターの設置にカネがかかるというなら、構内通路の復活だ。プラットホームの端に線路を渡る通路を作る。

バリアフリー施設は障害者だけではなく、誰にでも利点がある(写真提供:ゲッティイメージズ)

 しかし、ソフト面の解決方法を示していない。乗降介助は設備では解決できない。

 誰もが、時間にしばられることなく、思い立ったときに乗りたい列車に乗れる。無人駅でこれを実現するにはどうすればいいか。駅の利用客が少ない駅では車椅子利用者のコスト負担率が高まる。そのために駅員を配置できるか。鉄道会社は費用対効果からやりたくない。だから無人駅が増える。

 どうしても無人駅はダメだ。有人駅にしろと追求し続ければ、駅そのものを廃止して問題を消滅させてしまうかもしれない。もともと利用客が少ない赤字線だ。駅の1つや2つなくたっていいし、最終的にはすべての駅をなくしてもいい。つまり廃線である。

 交通政策基本法に基づいて、公共交通機関の責務を果たすためなら、鉄道である必要はない。代わりに路線バスとして車いす対応の車両を走らせたらどうか、となる。

 無人駅の中には、自治体が管理を引き継ぐ簡易委託駅がある。その場合、駅舎は集会所や出張所などを併設する事例も多い。しかし、各駅に人員を常駐するには費用がかかる。自治体だって苦しい台所事情がある。

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