本当に“定額働かせ放題”か? 裁量労働制の仕組み・運用の実態に迫る新連載・裁量労働制の現在地(1/2 ページ)

» 2022年01月31日 07時00分 公開
[田中 宏明ITmedia]

新連載:裁量労働制の現在地

 厚生労働省では働き方改革の推進に向けて、裁量労働制を含む労働時間制度に関する検討会が2021年から行われています。あらためて裁量労働制とはどのようなものか、あるいは運用の実態はどうなっているのか、自社における導入の是非はどう判断したらいいのか、制度設計はどのように進めたらいいのか、などについて連載形式で解説します。著者は新経営サービスの田中宏明氏。

 厚生労働省が2021年、裁量労働制をメインテーマとした「これからの労働時間制度に関する検討会」をスタートさせました。働き方改革の実現に向けて、対象業務の範囲や労働者の裁量と健康を確保する方策の見直しなどが企図されています。

 企業側でも、裁量労働制に高い関心が寄せられている実感があります。筆者は普段、人事コンサルタントとしてさまざまな企業の人事制度の設計や運用を支援しています。特に最近では、在宅勤務の広まりや採用難を踏まえ、社員の働きやすさの確保について議論することが増えてきました。その具体策として、裁量労働制など社員の労働時間管理の仕方も検討の俎上(そじょう)にのることがあります。

 本連載では、このように機運が高まっている裁量労働制について、経営や人事としてどう向き合っていけばいいのか、導入の方法やその是非をどう考えればいいのかについて、実際の支援事例も踏まえながら解説します。

違いは? 「専門業務型」と「企画業務型」

 詳細な話に入る前に、今回は裁量労働制について、内容と運用の実態をあらためて確認します。

 ここでは裁量労働制として、専門業務型、企画業務型の両方を取り扱います。いずれも、業務遂行の方法や時間配分を労働者に委ねるべき業務について、実際に何時間勤務したかによらず、労使で定めた時間を働いたと見なす制度です。

 仮にみなし労働時間を8時間と定めた場合には、1日に5分しか働いていなかったとしても遅刻・早退の取り扱いにならず、12時間働いたとしても超過分の残業代を支払う義務は生じません(ただし労働した時間帯を見なす制度ではないため、休憩・深夜・休日の規定は適用されます。また労働したかどうかを見なす制度でもないため、欠勤は労働したと見なされません)。

 また、対象となる業務や運用方法には厳しい制約があります。専門業務型裁量労働制でいえば、対象となる業務は研究開発、ITシステムの分析・設計、記事の取材・編集など、定められた19種類に限られています。

 運用に際しては、対象となる業務遂行の手段や方法、時間配分などに関して、労働者に具体的な指示をしないことが必要となりますし、制度の対象とする業務、健康・福祉を確保するための措置の具体的な内容などについて、労使協定により定めた上で、その内容を所轄労働基準監督署へ届け出ることが必要となります。

 同様に企画業務型裁量労働制では、対象となるのは「企業などの運営に関する事項についての企画、立案、調査および分析」の業務に限られます。また専門業務型と同じく、業務の遂行方法などに関して、使用者が具体的な指示をしないことが求められるほか、企画業務型独自の制約として、労使委員会の組織および、それらの5分の4以上の多数による議決による決議と、対象者本人の同意が必要です。もちろん、決議内容は所轄労働基準監督署に届け出る必要があります。

photo 写真はイメージです(提供:ゲッティイメージズ)

 ちなみにこれらの厳しい制約からか、裁量労働制を導入している企業は極めて少なくなっています。厚生労働省による令和2年就労条件総合調査の結果によると、導入企業の割合は、専門業務型が1.8%、企画業務型は0.8%という結果でした(ただし1000人以上の企業規模に限れば、それぞれ10.6%と4.8%)。

 なお、似たような制度にフレックスタイム制がありますが、時間管理の方法や、業務・運用における制約の有無が異なります。

 フレックスタイム制は、出勤と退勤の時間を労働者に委ねることを定めているだけであり、労働時間の規定は適用されます。つまり、定められた期間(精算期間)の労働時間の合計が所定労働時間を上回れば、残業代の支給が必要となります(不足していれば就業規則に基づき遅刻や欠勤と扱う場合もある)。

 また、対象業務の制約はありませんし、労使協定の締結は必要ですが、労働基準監督署への届け出は不要です。どちらかといえばフレックスタイム制は裁量労働制よりも労働者に対するメリットが大きいことから、制約を緩くして運用をしやすくしているのでしょう。

“定額働かせ放題”は本当か?

 では、この裁量労働制は実際にどのような運用がされているのでしょう。よくいわれるように、導入している企業の現場では“定額働かせ放題”となっているのでしょうか。

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