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OJT頼みな企業が多い中、メルカリが「博士課程進学支援制度」を発表した意義「会社が社員を守る時代」の終焉(2/3 ページ)

» 2022年02月16日 05時00分 公開
[川上敬太郎ITmedia]

 1つは、教育研修費用を「コスト」と捉えていることです。

 Off-JTで外部の研修機関などを利用する費用はコストと見なされます。また、社員を講師にしてOff-JTを施すと、生産活動から外れている間の講師と受講者の人件費はコストです。最も確実なコスト抑制策は、社員の教育研修をOJTに限定することです。OJTであれば、教育担当の社員に負担はかかるものの、生産活動は維持でき、目に見えるコストが発生することはありません。

画像はイメージ、出所:ゲッティイメージズ

 2つ目は、メンバーシップ型といわれる日本の会社の特性です。メンバーシップ型は、「就職」ではなく「就社」だといわれます。基本的に社員は職務無限定で、会社からの指示による配置転換がたびたび起こります。そのため、せっかく仕事を覚えた社員が異動でいなくなったり、代わりに未経験者を一から教え直したりということもよくあります。年度替わりなどには、全社で同時にたくさんの異動も発生します。そのたびに職場を離れてOff-JTで社員を育成していては、かなりのロスです。生産性を考えると、仕事を回しながらOJTで教育する方が合理的というわけです。

 3つ目は、社員の担当職務を細かく定めて体系化できていないため、学ぶべきスキルが分かりにくくなっていることです。例えば営業職だと、商品を売る業務全般、くらいにザクっと捉えてしまう傾向があります。しかし実際は、ファーストアプローチから商談を成立させるクロージング、請求書発行後の債権回収まで、一つの職種はさまざまな職務が連なることで構成されています。

 また、必要となるスキルや知識は職務ごとにさらに細分化されます。

 例えば、採用は人事という職種を構成する職務の一つですが、中途採用と新卒採用ではノウハウが全く異なります。さらに、採用対象者が現場作業員なのかエンジニアなのか外国人なのかでも必要なスキルや知識が異なります。それら職務ごとの違いを細かく洗い出して体系化していないので、補足すべきスキルがあっても曖昧です。Off-JTで教育研修を施そうにも、どんなカリキュラムを受けさせればよいのか焦点がボヤけてしまいます。それなら、先輩や上司が仕事中に気付いた課題を肌感覚で捉えて、その都度OJTで教える方がスムーズに対処できます。

 これら3つの要因は、いずれもその会社の考え方や体質と密接に結びついています。

 では、Off-JTを機能させたい場合、どう対処すればよいのでしょうか? 先ほど挙げた3つの要因に沿って考えていきましょう。

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