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OJT頼みな企業が多い中、メルカリが「博士課程進学支援制度」を発表した意義「会社が社員を守る時代」の終焉(1/3 ページ)

» 2022年02月16日 05時00分 公開
[川上敬太郎ITmedia]

 社会に出た後も、仕事で求められるスキルや知識を教育機関などで学び続けるリカレント教育をはじめ、かねて学び直しの必要性が指摘されてきました。働き手の側から考えると、学び直しが必要とされる理由は大きく3つあります。

 1つ目は、社会に出ることで学びの成果が具体的にイメージできるようになることです。学生のころは「何で、勉強なんかしなきゃならないの?」と疑問に思っていた人でも、社会の一員として仕事に携わるようになると、「このスキルを習得すると仕事に生かせるのでは?」と、学びから得られる成果が具体的に浮かぶようになります。そこから学習意欲が芽生える人は少なくありません。

 2つ目は、人生100年時代といわれるようになり、生涯にわたって仕事を持ち続ける必要性が増していることです。65歳で定年を迎えた後、残された35年の人生をどう生きるか。年金や貯蓄など、老後の生活資金が心配な人は、収入を確保し続ける手段を考えなくてはなりません。

 また、十分な退職金を得て悠々自適だったとしても、孫の成長や趣味だけを楽しみに、35年の歳月を充実させられるかは分かりません。しかし、そこに仕事という選択肢があれば、稼ぐための手段としては不要であっても、生きがいを得る手段としての意味が生まれます。何歳からでも仕事能力を磨き、学び直す機会が得られることは、超高齢化社会に生きる人々の可能性を広げます。

 3つ目は、時代変化の激しさからくるリスキリング需要の高まりです。リスキリングとは、時代が移り変わる中で新たに必要となるスキルを習得することです。かつて、社員1人に1台のPCが設置されるようになった際は、最低限でもメールやWord、Excelなどが使えるようリスキリングが必要となりました。同じことは、今も、そしてこれからも起こり得ます。時代の変化に取り残されないよう学び直し、新しいスキルを身につけられるか否かは、将来にわたって働き手に付きまとい続ける死活問題と言っても過言ではありません。

これから求められる「リスキリング」(画像はイメージ、出所:ゲッティイメージズ)

企業側もリカレント教育支援の動き?

 以上は働き手の視点ですが、経営資源の筆頭である“人”のニーズにどう応えていくかは、会社にとっての課題でもあります。昨今では、メルカリが社員の博士課程進学を支援する制度を発表し、話題となりました。同社の制度を報じた記事によると、社員にリカレント教育の機会を提供する目的とのことです。

 また、ヤフーが社員8000人にAIスキルを再教育する方針を打ち出したことも話題になりました。学び直しによる社員の能力開発には、会社の競争力を高め、生産性を向上させるなど、経営戦略的意義もあるのです。

 しかし、ヤフーやメルカリのように、社員の学び直しに積極的に取り組む会社の事例は、多くありません。日本の会社の教育スタイルは基本的にOJT(On the Job Training)です。職場で実際に仕事を進めながら学習します。目の前の仕事を身につける上で、OJTは間違いなく有効な教育手法ですが、仕事そのものを通じて体験できることしか学べません。

 仕事で新たに必要となるスキルや知識を学び直すには、職場から離れた場で学習するOff-JT(Off the Job Training)が有効です。ところが、残念なことにOff-JTは、日本の会社の中でうまく機能していないのが実情です。

 その理由は会社によってさまざまですが、日本の会社組織の多くに共通して見られる要因を3つ挙げたいと思います。

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