出向してきている社員が残業時間を超過 勤怠システムの費用は、出向元に請求していい?社労士・井口克己の労務Q&A(2/2 ページ)

» 2022年02月25日 12時20分 公開
[井口克己ITmedia]
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勤怠管理システムの利用について

 ここでは、出向元の会社、出向先の会社が既に勤怠管理システムを利用している場合の活用方法を紹介します。

  • 出向元の勤怠管理システムを出向先の人事担当、所属長も利用する
  • 出向先で利用中の勤怠管理システムに出向受け入れ者を追加する

出向元の勤怠管理システムを出向先の人事担当、所属長も利用する

 出向者は、出向元の会社の勤怠管理システムには既に登録されています。継続してこのシステムで出退勤時刻の登録、休暇申請などを行ってもらいます。それに加え出向先の会社の人事担当と所属長を管理者としてシステムに追加します。これで出向先の会社の人事担当、所属長も出向者の労働時間をタイムリーに把握できます。

 しかし、別の会社の勤怠管理システムを利用するためには、勤怠管理システムが会社の外部からも利用できるネットワーク環境が整備されていること、出向元の会社が出向者を含む外部の社員にシステムを利用させる情報セキュリティ規則が整備されていることが必要です。これらが整備されていない場合は、難しいでしょう。

出向先で利用中の勤怠管理システムに出向受け入れ者を追加する

 出向元の会社の勤怠管理システムを利用できない場合は、出向先の会社の勤怠管理システムを利用します。新入社員と同じようにシステムに登録して、勤務管理を行います。出向先の会社の制度に沿った所定外労働時間、法定外労働時間がタイムリーに把握でき、36協定の特別条項発動の準備も行うことができます。

 しかし、出向者は出向元の会社の労働条件が適用されるため、出向元の会社と出向先の会社で所定労働時間が異なると出向元の会社が必要な所定外労働時間を算出することができません。また、出向元の会社にしかない休暇がある場合は出向先の会社のシステムでは申請できません。

 出向者の給与計算を行うためには、出向元の会社の基準で労働時間や休暇を管理する必要があります。出向者は、出向先・出向元の2つの勤怠管理システムの両方に出退勤時刻の登録や休暇の申請をします。出退勤時刻の登録には入退室のICカードの時刻、業務用PCの起動・終了時刻を活用するなどのシステム登録負担の軽減をあわせて検討する必要があります。

システム費用を出向元に請求する

 勤怠管理システムに出向者を登録すると、クラウド型の勤怠管理システムの場合、社員一人当たり月額で課金されます。勤怠管理システムだけでなく、社会保険(労務管理)システムや電子メール、スケジューラ―、会計システムなど利用者の増加に応じて増額するシステムは多いです。

 数名であれば月額で数千円と安価ですが、人数が10人、50人と増えていくと月額で十数万円となることも想定されます。出向者の出向先のシステム環境の整備を行うための費用と考えると、出向先だけが負担すべきものとはいえません。負担割合について出向元と出向先の話し合いを行うことが必要です。

 ここで注意しておくことは、グループ会社間で出向者を派遣するような大手企業では、勤怠管理や給与計算に社員一人当たりで課金されるようなクラウド型システムの活用は進んでいません。そのためシステムの利用者が一人増えることでシステム費用が増加するということを理解してもらえない可能性があります。クラウド型システムの料金表などを利用し、社員一人当たりのシステム費用について丁寧に説明をして理解を促してください。

まとめ

 給与を支払わない出向者であっても、36協定の上限時間や特別条項発動の手続きを順守する必要があります。そのためには所定外労働時間、法定外労働時間を月の途中でも把握できることが重要です。

 出向元の会社からの情報を待っているだけでは、上限時間を超えてしまうことも考えられます。そうしたことがないよう、出向者の勤怠に関しても出向先会社の勤怠管理システムを活用してください。

 システム利用にかかる費用についても出向先の会社だけで負担しなければならないものと考えず、出向元の会社と費用負担を案分できるよう話し合いを行いましょう。

著者プロフィール

井口克己(いぐちかつみ) 株式会社Works Human Intelligence WHI総研フェロー

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神戸大学経営学部卒、(株)朝日新聞社に入社し人事、労務、福利厚生、採用の実務に従事。(株)ワークスアプリケーションズに転職しシステムコンサルタントとして大手企業のHRシステムの構築・運用設計に携わる。給与計算、勤怠管理、人事評価、賞与計算、社会保険、年末調整、福利厚生などの制度間の連携を重視したシステム構築を行う。また、都道府県、市町村の人事給与システムの構築にも従事し、民間企業、公務員双方の人事給与制度に精通している。現在は地方公共団体向けのクラウドサービス(COL)の提案営業、導入支援活動に従事している。その傍ら特定社会保険労務士の資格を生かし法改正の解説や労務相談Q&Aの執筆を行っている。

株式会社Works Human Intelligence

人事管理、給与計算、勤怠管理、タレントマネジメントなど人事にまつわる業務領域をカバーする大手法人向け統合人事システム「COMPANY」の開発・販売・サポートを行うほか、HR関連サービスを提供している。COMPANYは、約1200法人グループへの導入実績を持つ。

全てのビジネスパーソンが情熱と貢献意欲を持って「はたらく」を楽しむ社会の実現を目指す。

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