トヨタがEVメーカーになることを待望するヒトに欠けている視点と残念な思想高根英幸 「クルマのミライ」(4/4 ページ)

» 2022年03月01日 07時00分 公開
[高根英幸ITmedia]
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BEVの価格が下がるまで待つことが愚かな理由

 BEV自体の新車価格が下がることを待っている人もいるようだが、それも残念な考え方だ。BEVの販売台数が増えたり、生産コストを下げる技術の導入で価格が下がっていくことはあり得る。一方で、原料の獲得競争によるコスト上昇や新たな機能、規制への対応で車両価格が上昇する可能性もある。

 そして販売台数が増えて普及が進めば、補助金という後押しは無くなっていく。住宅向け太陽光発電然り、エコカー減税然り、これまでの補助金政策を振り返れば分かるだろう。そうなれば実際の購入費用は増える可能性があるのだ。

 またBEVの比率が上がり、エンジン車の保有台数が減少していけば、政府は自動車関連税の新たな財源としてEVへの課税を強化することになるのは当然の流れだ。現在は次世代エコカーとして普及を後押しするためにEVに補助金を投入しているが、普及すれば回収される側へと置かれる立場は変わっていく。

 今年半ばに国内で発売されるトヨタのBEV「bz4X」は、一般ユーザーには通常の販売形態ではなくサブスクリプションサービスのKINTOに限ることになると報じられている(トヨタは公式には未発表)。これはKINTOの需要を高めることと、リセールバリューやバッテリーの劣化を気にすることなく購入してもらうためにもなる一石二鳥の手段だ。

 ちなみにマツダも、MX-30のEVモデルの残価設定ローンでは、ガソリン車と同じ5年後に55%という残価を設定している。バッテリーの保証制度と相まって、初めてのBEVを安心して購入できる体制作りを敷いている。

 ガソリン価格高騰が著しい現在、今後5年でBEVを購入するドライバーは相当に増えるだろう。エンジン車の販売規制と相まって、この流れはさらに加速していくだろう。それを指を加えて見ているのは、大きな損失になり兼ねない。クルマを取り巻く環境の変化はこれまで以上に加速しているのだ。後悔しないために最後のエンジン車を選ぶドライバーもまた存在することだろう。

 どちらにせよ将来的に移動の価値は、現在より高くなることは間違いない。つまり、それはメタバースを始めとするバーチャルな空間の利用など、これまでとは異なる体験の選択肢が増えることも影響するだろう。

 トヨタはモビリティカンパニーへの転身を目指し、さまざまなサービスや事業の転換を進めようとしている。だが従来は移動でしか得られなかった体験がバーチャルでも補えるようになり、移動では得られなかった出会いやビジネスの創出が期待できるようになってきた現在、モビリティサービスの価値が変化していくことも予測できる。

 クルマを取り巻く環境は、これから当分の間目が離せない。我々は何ともエキサイティングな時代を過ごせることになるのだろうか。

筆者プロフィール:高根英幸

芝浦工業大学機械工学部卒。日本自動車ジャーナリスト協会(AJAJ)会員。これまで自動車雑誌数誌でメインライターを務め、テスターとして公道やサーキットでの試乗、レース参戦を経験。現在は日経Automotive、モーターファンイラストレーテッド、クラシックミニマガジンなど自動車雑誌のほか、Web媒体ではベストカーWeb、日経X TECH、ITmediaビジネスオンライン、ビジネス+IT、MONOist、Responseなどに寄稿中。近著に「ロードバイクの素材と構造の進化(グランプリ出版刊)、「エコカー技術の最前線」(SBクリエイティブ社刊)、「メカニズム基礎講座パワートレーン編」(日経BP社刊)などがある。企業向けやシニア向けのドライバー研修事業を行う「ショーファーデプト」でチーフインストラクターも務める。


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