火鍋は赤字、麻辣湯はIPO!? コロナ禍でも猛烈拡大、中国外食チェーンの光と影浦上早苗「中国式ニューエコノミー」(4/4 ページ)

» 2022年03月03日 13時30分 公開
[浦上早苗ITmedia]
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「逆張り」のつけ、大量閉店に追い込まれた海底撈

 楊国福がIPOを申請する前日の2月21日、火鍋チェーンの「海底撈火鍋」が21年通期で38〜45億元(約690〜820億円)の純損失を計上するとの業績予想を発表した。

 同社の18年〜20年の純利益はそれぞれ6億4600億元、23億4500億元、3億900万元。21年だけで過去3年分の利益が吹き飛ぶ赤字を出したことになる。

 同年の売上高は前年比40%以上増え400億元(約7200億円)を超える見込みで、赤字の最大の要因は33〜39億元に上る建物や設備の減損処理だった。海底撈は業績悪化の原因として、大量閉店による売上高の減少と減損処理、新型コロナウイルスの影響、新規出店を急いだ結果のマネジメントの混乱を挙げた。

 海底撈はコロナ禍で飲食業界が低迷し、テナント賃料が低迷したのを「進出の好機」と判断、逆張り戦略で20年に544店舗、21年上半期に299店舗をオープンし、同年6月末時点の店舗数は1597店に増えた。グループ客メインで客単価の高い海底撈が1年半で店舗数を倍増させるのは、大胆の極みである。

 ところが海底撈は21年11月5日、年内に約300店舗を閉鎖すると発表した。創業者の張勇氏は21年6月の決算会見で「20年6月時点でコロナ禍は9月に収束すると考え、規模拡大のチャンスととらえた。今思えば当時の判断が楽観的すぎた」と判断の誤りを認めた。急な拡大にマネジメントが全く追いつかず経営が混乱したことも、痛手となった。

 海底撈は神接客が評判を呼び、人気店となった。日本でも首都圏を中心に店舗を展開しており、本国ばりの接客とパフォーマンスで、オミクロン株が猛威を振るう中でも、週末は大勢の客でにぎわっている。ただ、18年に香港で上場してからの急拡大で、中国本土ではサービスの質も話題性も薄れたように思える。

 中国のチェーン店にとって規模拡大は常に正義であり、上場後はその傾向がより強くなる。ただ、急拡大の反動で巨額赤字を計上するのも中国チェーンあるあるで、昨日の勝ち組が明日はリストラを迫られるのも珍しくない。個人商店のまま5000店舗体制に成長した楊国福は、上場を機にどこに向かうのだろうか。

池袋や新宿などにも出店し、日本人・中国人双方の人気を集めている海底撈。コロナ禍が想定よりも長期化し、海底撈は大量出店から一転、大量閉店を余儀なくされた(筆者撮影)

筆者:浦上 早苗

早稲田大学政治経済学部卒。西日本新聞社を経て、中国・大連に国費博士留学および少数民族向けの大学で講師。2016年夏以降東京で、執筆、翻訳、教育などを行う。法政大学MBA兼任講師(コミュニケーション・マネジメント)。帰国して日本語教師と通訳案内士の資格も取得。
最新刊は、「新型コロナ VS 中国14億人」(小学館新書)。twitter:sanadi37

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