ウクライナがロシア軍の動向把握を目的に、日本に人工衛星のデータ提供を求めていることが分かった(日本経済新聞、3月18日付朝刊)。日本に要請したとされるのが、夜間や悪天候でも地表を観測できる「合成開口レーダー(SAR)」という技術を生かした衛星データだ。暗闇や雲で覆われた領域は人工衛星で撮影しても何も見えないはず――。そんな障壁を物ともしないSAR衛星とは一体、どのような技術なのだろうか。小型SAR衛星を開発する日本の宇宙ベンチャー「Synspective(シンスペクティブ)」(東京都江東区)に話を聞いた。
初めに、SAR衛星で撮像した富士山の写真を見てほしい。これは、シンスペクティブが21年2月8日に同社最初の小型SAR衛星「StriX-α(ストリクス・アルファ)」を使って撮像したデータだ。頂上部の山肌の凹凸までくっきりと見て取れる。平面ではなく、立体的に見えるのも面白い。
「SAR衛星は、曇りや夜間でも、電波を使って地表を観測できるのが特徴。天候などの外部要因に左右されずに観測することができる」
こう話すのはシンスペクティブのPRマネージャー、熊崎勝彦さんだ。
普段、私たちがよく目にする衛星写真は、光学センサーと呼ばれるデジカメのような装置を搭載した「光学衛星」から地表を撮影したものだ。米グーグル社が開発したバーチャル地球儀システム「Google Earth」など、さまざまなWebサービスで利用が進んでいる。
光学衛星は「色」を観測対象とし、見た目もカラー写真のようで分かりやすいが、夜間帯や雲で覆われている箇所は隠れて見えない。
これに対し、SAR衛星は、電波の一種であるマイクロ波を発し、地表から反射して返ってきた波を用いて地表を観測する。波長が長いマイクロ波は雨雲を透過するため、悪天候や夜間帯でもデータ取得が可能になる。
SAR衛星は、光学衛星のような平面のデータを取得するのではなく、地形や構造物を立体的に観測する。「色」ではなく「形」を観測対象とするため、取得したデータは白黒になる。見た目の分かりやすさは、光学衛星で捉えたカラー画像に軍配が上がるが、SAR衛星で取得したデータは、色付けするなど加工して分かりやすくする工夫もできる。
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