入院中に有休を使い切った社員 会社が立て替えた住民税を踏み倒して退職……どうすればよかった?社労士・井口克己の労務Q&A(2/2 ページ)

» 2022年03月29日 07時00分 公開
[井口克己ITmedia]
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休職中の収入について

photo 画像はイメージです(提供:ゲッティイメージズ)

 無給の休職期間となった場合でも、全く収入がなくなるわけではありません。特に病気が原因で働けない場合は、健康保険、民間の保険から収入を得られることがあります。

休業補償給付・休業特別支援金

 業務上の事故によるけが、病気で入院した場合に、労働保険から給付されます。金額は過去3カ月の平均賃金の80%(休業補償給付60%、休業特別支援金20%)となります。

傷病手当金

 業務以外で発生した病気やけがで入院した場合に、健康保険から給付されます。金額は、過去12カ月の標準報酬月額の平均額÷30×2/3となります。期間は働けなくなった日の4日後から1年6カ月後まで毎日支払われます。申請によって支給されます。社員本人が入院中で手続きできない場合は会社が申請を代行し、給付金を代理で受け取ることが可能です。

長期就業不能保険

 病気やけがで長期にわたり入院または自宅療養が必要となり働けなくなった時に、給付金を受け取ることができる民間の保険です。社員が自ら加入します。通常の生命保険のように死亡してから給付されるのではなく、生前の事故に対して給付されますので、無給期間中の生活費として見込むことができます。

 労災や社会保険は就業不能となってからでも給付を受けることはできます。民間の保険は健康な時に加入する必要があります。普段から社員の財産形成や就業不能時の備えを進めるように会社から働きかけることが、いざという時に役に立ちます。

会社が立て替えた控除金を、本人から回収するには

 まず、病気や欠勤などで控除金の方が給与より多くなる場合の清算方法については、法令の定めはありません。どの手続きを利用する場合でも、あらかじめ就業規則などに明記した上で、無給期間に入る前に社員に説明し納得してもらうことが重要です。

 会社が立て替えた分を回収する方法には、以下の3つがあります。

  • 毎月不足分を会社の口座に振り込む「毎月清算型」
  • 休職から復帰した時にまとめて清算する「復職時精算型」
  • 退職金で清算する「退職金清算型」

 無給期間が短期間で確実に復職が見込める場合は、本人と経理担当に毎月、請求書を発行して口座入金させる事務的な手間をかけさせるより、復帰時に一括で清算する方がよいと思います。

 反対に、復職が見込めずそのまま退職してしまう見込みの場合は退職金で清算することがよいでしょう。退職金がない場合や無給期間が長期間になる場合は、控除金の不足が発生したらその月に清算をする「毎月清算型」がよいと考えられます。

清算タイプ 説明
毎月清算型 立替金は、発生した月に、社員が会社の口座に必要な金額を振り込んで清算する。
復職清算型 立替金は復職時まで累積させておく。復職時に、社員が立替金の総額を会社の口座に振り込んで一括清算する。
退職金清算型 立替金は退職時まで累積させておく。退職時に立替金の総額を退職金から天引きして清算する。

 また、健康保険の傷病手当金は会社が代理で受け取ることにしておきましょう。立替金の清算ができなかった時に、会社が立て替えて支払った分を差し引いて、本人に支払うことができます。これによって立替金の回収不能となるリスクは下がります。

 しかし、傷病手当金から立替金を差し引くことは、法令上当然に実施してよいものではないので、必ず社員に傷病手当金を代理で受け取ること、その中から立替金に相当する金額を差し引くことを事前に説明し、同意を得た上で実施してください。

まとめ

 病気休職で無給になり、その間に発生する控除金は社員にとっては、健康面と同じくらい不安なものとなります。労災保険や社会保険の給付は、手厚いものですが、社員の年齢、家族構成なども考慮すると十分ではないこともありますので、就業不能保険の加入を推進することも重要です。

 病気やけがで長期療養が必要だと予想される場合には、無給になる前に控除金の内容を確認し、また不要不急な積み立て貯蓄は停止した上で、本当に必要な控除金だけを残すよう指導しましょう。さらに、傷病手当金や就業不能保険などの活用で金銭面の不安を回避し、療養に専念できるよう支援してください。

著者プロフィール

井口克己(いぐちかつみ) 株式会社Works Human Intelligence WHI総研フェロー

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神戸大学経営学部卒、(株)朝日新聞社に入社し人事、労務、福利厚生、採用の実務に従事。(株)ワークスアプリケーションズに転職しシステムコンサルタントとして大手企業のHRシステムの構築・運用設計に携わる。給与計算、勤怠管理、人事評価、賞与計算、社会保険、年末調整、福利厚生などの制度間の連携を重視したシステム構築を行う。また、都道府県、市町村の人事給与システムの構築にも従事し、民間企業、公務員双方の人事給与制度に精通している。現在は地方公共団体向けのクラウドサービス(COL)の提案営業、導入支援活動に従事している。その傍ら特定社会保険労務士の資格を生かし法改正の解説や労務相談Q&Aの執筆を行っている。

株式会社Works Human Intelligence

人事管理、給与計算、勤怠管理、タレントマネジメントなど人事にまつわる業務領域をカバーする大手法人向け統合人事システム「COMPANY」の開発・販売・サポートを行うほか、HR関連サービスを提供している。COMPANYは、約1200法人グループへの導入実績を持つ。

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