「このままでは置いていかれて、上海とか北京とかシンガポールに負けちゃうわけですよ」
そう強い危機感をにじませるのは、北海道大樹町で宇宙港「北海道スペースポート(HOSPO)」の開発・運営を任されているSPACE COTAN(スペースコタン)の小田切義憲社長だ。全日本空輸の元社員で元エアアジア・ジャパン社長なども歴任してきた。
58歳でベンチャー社長となった小田切氏が目指しているのは、「高速二地点間輸送」を可能にするアジア初の商業宇宙港を北海道大樹町につくることだ。そして、その先には、かつての経済成長を支えた北海道全体の機械産業が航空宇宙産業に生まれ変わる、というビジョンまで見据えている。
3月、国は地方創生交付金の事業として、この「宇宙港」の整備事業を採択し、3年間で11.6億円を交付することを決めた。主な使途として、民間企業などの人工衛星用ロケットの打ち上げに対応したロケット射場の新設や、スペースプレーン(宇宙船)実験用の滑走路を1300メートルまで延伸する工事に充てられるようだ。
これまで前職にて空港を中心とした地域創生プロジェクトにも関わってきた小田切氏は、「観光コンテンツの充実だけでは厳しい」と現状の地方創生の在り方を嘆く。観光産業ではなく、北海道の強みを生かした産業の復活を目指す「宇宙版シリコンバレー」構想を聞いた。
――宇宙ビジネスは、より身近なものになっていくのでしょうか。
2021年7月には宇宙旅行会社ヴァージン・ギャラクティックのリチャード・ブランソン氏やAmazon創業者のジェフ・ベゾス氏が宇宙旅行に成功しました。確かに画期的なビジネスとしては良いでしょうけど、事業としては、あまり持続性がないと思っています。15分間の宇宙遊泳や、無重力体験に3000万円から20億円くらい払って行っているんです。
その一方で注目しているのは、いわゆるPoint to Point(PtoP)といわれる、「高速二地点間輸送」です。私がエアラインにいたからかもしれないですが、人がA地点からB地点にいくビジネスモデルは未来永劫続くと思っています。
例えば、今はニューヨークに行くには約13時間かけて飛行機で行きますよね。快適性を求めてファーストクラスで150万円、ビジネスクラスで80万円、エコノミークラスで20万円程度と価格は大きく違いますが、かかる時間は全員一緒なんですよ。
これからは、ファーストクラスに乗る人たちが、大事な契約や重要な会議に出るために、250万円払ってニューヨークへ日帰りで行くようになると思うんです。そういうビジネスがもう間もなく始まると考えています。
――その流れは米国から始まるのでしょうか?
やっぱり米国が最初でしょうね。米国から欧州、その後アジアに来るんですね。アジアのどこに来るか、というときに、日本はおちおちしてはいられません。上海や北京、シンガポールに宇宙港ができちゃうと、負けてしまうわけですよ。
いま日本でも、PtoPの"宇宙機"を作ろうと準備を開始してるのですが、完成は40年代の半ばといわれています。
でも米国は20年代の後半には”宇宙機”を飛ばすと言っています。だから、私たちは“国産宇宙機”を待つのではなく、海外から来てもらえる射場をちゃんと作らなきゃいけない。そのためには、リチャード・ブランソン氏が乗ったような水平着陸タイプの宇宙機が来られるのに十分な長さの滑走路の整備が必要だと考えています。
HOSPOでは、将来的には3000メートルの滑走路を作る計画を考えています。
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